西川祐子
吉川弘文館、2000年10月、283ページ
ISBN=4642077669
[部屋の文化研究 8]
以前に、ある老人福祉総合施設の部長さんから、入居者の衣食住の世話と身体介護の仕事以外に、多岐にわたる業務がある、これをまとめて呼ぶいい言葉はないか、とたずねられた。「住む」とは、「生きる」ことのほとんど全てを覆うほどの複雑な行為である。 まず、分類の難しい業務をリストアップしてみた。高齢の入所者にとって金銭管理は大問題...
『10+1』 No.25 (都市の境界/建築の境界) | pp.23-24
[部屋の文化研究 5]
数多くワンルームの設計を手がけている建築家である篠原聡子さん(空間研究所/日本女子大学)とその研究室が行なうワンルーム住人を対象とする聞き取り調査に参加するという、またとない機会を得た。 今回の調査対象である篠原聡子設計の五階建てワンルームマンションAPERTO(一九九八年三月竣工)はJR千葉駅北側の再開発地区にある。...
『10+1』 No.22 (建築2001──40のナビゲーション) | pp.47-48
[部屋の文化研究 4]
この連載は連想ゲームのようにして続く。主題は最初の回の終わりに書いたように、個々人の空間である「部屋と部屋が助け合わなければならないとき、どんな新しい仕掛けが発明され」るかである。新しい試みがあると聞くと見学にゆき、問答をさせてもらい、その取材のなかから次回のヒントが浮かび上がるというようにして続けるつもりである。京都...
『10+1』 No.21 (トーキョー・リサイクル計画──作る都市から使う都市へ) | pp.34-36
[部屋の文化研究 7]
今、小さい家が注目されている。戦後の住宅はひたすら部屋数をふやすことと、大きな家になることを目指してきたのだが、家族数が減れば方向転換がありうる。小さい家は一室住宅になることも多いから、本連載の扱う対象となるであろう。大きな家は伝統民家と呼ばれて、文化財として保存されるが、その昔、大きな家のまわりにあった無数の小さな家...
『10+1』 No.24 (フィールドワーク/歩行と視線) | pp.33-34
[部屋の文化研究 6]
この二年ほど、文化人類学科の「ジェンダーと文化」という科目で、日本型近代家族とその容器としての住宅の変遷というテーマの講義をしている。受講生がもっとも生き生きと取り組む課題のひとつに「設計者の意図に反した住みかたをしている面白い住宅例を調査し、報告せよ」というものがある。 建築家には本意でないかもしれないが、住人は住み...
『10+1』 No.23 (建築写真) | pp.36-37
[部屋の文化研究 2]
連載第一回でふれた一九七六年設立の元祖ワンルームであるメゾン・ド・早稲田は、早稲田大学の近くにある。メゾン・ド・早稲田だけでなく、周辺には明治にはじまる下宿屋の歴史見本のような建物が散在しており、界隈の全体が下宿屋博物館のようだ。明治以来書生の育成をつづけてきた学校の隣接地域だということであろう。 同潤会が戦前一九三〇...
『10+1』 No.19 (都市/建築クロニクル 1990-2000) | pp.30-31
[部屋の文化研究 3]
同潤会大塚女子アパート訪問のつづきのようにして、石川県和倉温泉にあるカンガルーハウスをたずねる機会があった。温泉旅館で客室係として働きながら子育てをする女性たちのために旅館経営者が保育園併設の母子寮を建設しているときいて、ぜひ自分の目でたしかめてみたかった。建物の見学を許され、幸運にも設計者水野一郎氏、経営陣、旅館で働...
『10+1』 No.20 (言説としての日本近代建築) | pp.38-39
[部屋の文化研究 1]
昨年末に『借家と持ち家の文学史──「私」のうつわの物語』(三省堂)という本を出した。日本近代一三〇年のあいだに書かれた大量の文学作品を、「私」と家族の容器としての住まいモデルを探すというテーマのテキスト、集団制作による大河小説として連続して読む試みである。日本列島の上での生活はたった一世紀のあいだにほかに例をみないほど...
『10+1』 No.18 (住宅建築スタディ──住むことと建てることの現在) | pp.33-35