現在の建築批評のモード、なかでもアメリカから発信されて趨勢を得ているものは、八〇年代のアメリカ美術界において「ニュー・アース・ヒストリー」が遭遇する「ポスト構造主義」理論と「フェミニズム」理論に多くの源泉をもっている。アメリカの文学批評においてはすでに七〇年代後半、デリダの弟子筋にあたるイェール学派の脱構築(ディコンストラクション)批評とクリステヴァ経由のラカンの精神分析批評が、六〇年代の女権拡張運動から生まれたフェミニズム批評理論「ガイノクリティックス」と交錯して、西洋父権体制下で無意識のうちに抑圧される「女性的なるもの」=「ガイネーシス」なる概念(アリス・ジャーディン)を生み出していた。ジャーディンは、西洋の二項対立抑圧システムのなかで時間概念が歴史(history=his story)と連動するがゆえに、時間/空間の認識が男性/女性というジェンダーの区別と関連づけられて形成されてきたことを指摘する。そこではロゴセントリズムとファロセントリズムを結びつけた、デリダの命名であるファロゴセントリズムが批判・解体され、つまるところ脱構築の対象となるわけである。こうして八〇年代後半に向けて、同一性ではなく差異を強調するポストモダン・フェミニズムに移行し、さらに性差を文化、社会的な構成概念としてとらえるジェンダー論へと展開していく。