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「批判的工学主義」のミッションとは何ですか?1──定義・マニフェスト編 | 藤村龍至
What is the Mission of "Critical Engineering-ism" ? 1: Definition / Manifesto Edition | Ryuji Fujimura
掲載『10+1』 No.49 (現代建築・都市問答集32) pp.94-95

二〇〇〇年以降、東京の都心部では高速で大規模な開発が進み、湾岸地区ではタワーマンションが、バイパス道路沿いにはメガショッピングモールが、それぞれ大量に建設されている。それら都市・建築をめぐる量、規模、変化の速度に対して、社会学者や哲学者は建築家の議論の遅れを指摘するものの★一、現実の都市空間への働きかけとしては「脱空間化」★二といった建築家不要論や、「高速道路やタワーマンションはほぼ自動的に設計される」★三といった諦観に留まっている。
商業空間や不動産開発の場面に代表されるように、人々の心理を巧みに刺激する仕掛けに満ち、大規模開発が次々と進む現代都市の空間は、ミクロスケールにおいても、マクロスケールにおいても、「アーキテクチャー」型権力★四によって全面的に覆われてしまっている。このような近代後期の権力(法、経済原理、規範、物理的環境としての建築)が半ば自動的に作動している状況を無意識的に前提とする立場を「工学主義」と名付けよう。確かに、そのような状況に対して見て見ぬふりをしてきた建築家の態度は批判されても仕方がない。しかし、その一方で、その状況を指摘するのみでその前提条件に介入できていない社会学者や哲学者の態度もまた、物足りなさが残る。今必要なことは、両者の職能をブリッジし、各々が社会の規制力の一部を担っているという立場に立って、個々のプロジェクションの前提条件を戦略的に方法論に転化するコラボレーションのイメージを示すことである。個々の場面に作用するアーキテクチャー型権力や建築の被制約性を戦略的に解体、再構成することによって、「工学主義」を批判的に実践する「批判的工学主義」なる立場を拓いていくことは可能だろうか。
突破口として、二つの事例をご紹介したい。まず、スウェーデン発の家具ブランド、IKEAのショップである。店舗の多くは二階建てで、どの店舗においてもエントランスを入るとまず二階のショールームへ上げられる。このフロアは、動線の分岐が一切ない★五。ひと通り進んで、ちょっと疲れたなと思う頃、二階の動線の端部にはカフェテリアがあり、コーヒーで一息入れてしまう。階段を通って一階に降りると、そこには先ほどのショールームに展示されていた雑貨が棚や整然と並べられており、二階の高級感が演出されたデパート的な空間とは対称的に、一階は親密さが演出されたスーパーマーケット的な空間となっており、価格の安さに釣られてついついカートを埋めていってしまう。しばらく進んで自動ドアをくぐると、そこは二層吹き抜けの倉庫で、大型家具がナンバリングされた巨大な棚に並べられた物流センターのような空間となっている。二階が遭遇可能性の高められたブラウジングの空間だとすると、一階は検索可能性の高められたサーチングの空間であり、店舗全体でインターネット的な構造を持つ★六。ディズニーランドのように演出的でありつつも、キャラクター的な記号に頼らず、物流センターのように機能的でありながら、機能のみによって形態が決められていない★七。
このように、インテリアのデザインは、視覚的な一望性や身体の局所性を定義する存在として盛んに用いられているにもかかわらず、既存の建築論は象徴性や機能性以上の意味を発見してこなかった★八。その意味で、「売り上げを伸ばす」というあまりにも単純な目的の前に、人間を身体的なレヴェルでコントロールしようとする商業空間の試みは、批判的な検討の余地を大きく残している。
そのような工学主義との対峙は、身体スケールのみならず、都市スケールにおいても観察される。例えば、オランダのアイントフォーフェン郊外に計画された物流センターとオフィスビルからなる《FLIGHT FORUM》(MVRDV、二〇〇四)を見てみよう。通常、こうした開発ではメインストリート沿いのブロックが最も地価が高いため、全体は土木的な条件によって造成された土地を不動産的な条件によって区画する、というように工学的に決定されてきたのだが、ここではすべての街路を時速五〇キロで走行可能なカーブで構成された回遊型の動線で繋ぎ、すべてのブロックがメインストリートに面するように再構成することで全体の賃料を上げる、という方針が採られている。その結果、対向車とのすれ違いや信号がなく、歩行者が安全に移動できる豊かな外部空間が確保され、新たな風景が生まれている★九。
そこには商業の論理と戯れるというヴェンチューリ、コールハース的なアイロニーはない★一〇。工学的な問題が、その前提条件を問いただすことでまさに「工学的に」乗り越えられている。
このようなインテリアや不動産の分野で先鋭化された「工学主義」的な表現が、どこまで建築一般の可能性を言い当てているのかは、ひとまず保留しておく必要があるだろう。ただ、目の前で展開されている社会的現実に私たちは対峙しなければならないし、その格闘の先に新たなる場所性を獲得しなければならないというミッションだけは明らかなのである★一一。

1──東京の都市空間 筆者撮影

1──東京の都市空間
筆者撮影

2──郊外型商業空間 筆者撮影

2──郊外型商業空間
筆者撮影

3──MVRDV《FLIGHT FORUM》 引用出典=『MVRDV FILES』 (『a+u』2002年11月臨時増刊号、新建築社)

3──MVRDV《FLIGHT FORUM》
引用出典=『MVRDV FILES』
(『a+u』2002年11月臨時増刊号、新建築社)


★一──宮台真司は磯崎新との対談において、現代都市では表層において趣味的に戯れる多数の建築家と深層を設計する少数のエリートが対比されるとし、「建築家の格下げ」を指摘している(山本理顕編『私たちが住みたい都市──身体・プライバシー・住宅・国家』平凡社、二〇〇六)。また、東浩紀は『10+1』で組まれた度々の東京特集が徐々にトーンダウンしていると指摘している。特に「TOKYO SUBDIVUSION FILES」(『10+1』No.29、INAX出版、二〇〇二、所収)に添えられた塚本由晴のコメントについては、「建築論の都市社会学系の言説に対する敗北」と位置づけている(東浩紀+北田暁大『東京から考える──格差・郊外・ナショナリズム』日本放送出版協会、二〇〇七)。
★二──宮台真司の発言(山本理顕編『私たちが住みたい都市』)。
★三──東浩紀の発言(東浩紀+北田暁大『東京から考える』)。
★四──ローレンス・レッシグ『CODE──インターネットの合法・違法・プライバシー』(山形浩生+柏木亮二訳、翔泳社、二〇〇一)。
★五──一般的には環状の動線を連結させた回遊型動線のほうが売り上げ効率がよいとされる。
★六──筆者はこうした空間と情報の関係がみられる商業施設の二層構造を「dual space」と名付け、そこに情報技術との構成的類似性を見出し、フィールドワークを行なっている。
★七──類似の建築作品の例としては、高級感を演出する個室的な空間とスタッフの効率的な動きを可能にする一室的な空間を両立する《LOTUS BEAUTY SALON》(中村拓志、二〇〇六)や、入りやすさを演出するようエントランスから再奥部まで視覚的に開放しつつ、滞在時間を最大化するよう動線を左右に蛇行させた
 《UTSUWA》(筆者、二〇〇六)などが挙げられる。
★八──建築家の柄沢祐輔は概念の一望性と身体の局所性がハイブリッドされた空間を「虚の不透明性」と名付けており、本特集の「『虚の不透明性』をめぐる空間概念編」でそれを詳述している。また、社会学者の南後由和は、記号性と機能性をめぐる既存の建築都市論と批判的工学主義の関係を「歴史・メディア編」にて詳細に検討を加えている。これらの基礎的な内容は二〇〇七年七月一五日に東京大学にて行なわれた国際会議UMAT(Ubiquitous Media Asian Transformations)のセッション「Japanese Urban Space and Architecture after 1995(一九九〇年代以降の日本の都市・建築──情報化する風景の批判的分析)」(発表者:藤村+柄沢+南後、コメンテーター:五十嵐太郎若林幹夫)にて報告されている。
★九──類似例として、什器の感覚や通路幅、四五度駐車の角度やロードサイドの看板としての二面性、構造や照明計画等が高度に統合された《ダブル・テンポ》(吉村靖孝吉村英孝+渡辺佐和子/MOM、一九九九)や、公園と住宅の比率を反転させ、開発エリア全体の地価を上げることによって高級住宅地化させた「Tree City」(ブルース・マウ・デザイン、二〇〇一)などがある。
★一〇──ロバート・ヴェンチューリほか『ラスベガス』(石井和紘+伊藤公文訳、SD選書、一九七八)。
★一一──「批判的工学主義」と場所論との関係およびそれを実現するための設計手法については拙稿「超線形設計プロセス論」(『10+1』No.48、INAX出版、二〇〇七、所収)にて論じているので参照されたい。

>藤村龍至(フジムラ・リュウジ)

1976年生
藤村龍至建築設計事務所。建築家、東洋大学講師。

>『10+1』 No.49

特集=現代建築・都市問答集32

>磯崎新(イソザキ・アラタ)

1931年 -
建築家。磯崎新アトリエ主宰。

>山本理顕(ヤマモト・リケン)

1945年 -
横浜国立大学大学院教授/建築家。山本理顕設計工場 代表。

>東浩紀(アズマ ヒロキ)

1971年 -
哲学者、批評家/現代思想、表象文化論、情報社会論。

>塚本由晴(ツカモト・ヨシハル)

1965年 -
建築家。アトリエ・ワン共同主宰、東京工業大学大学院准教授、UCLA客員准教授。

>北田暁大(キタダアキヒロ)

1971年 -
東京大学大学院情報学環准教授/社会学。

>Code

2001年3月1日

>柄沢祐輔(カラサワ・ユウスケ)

1976年 -
建築家。柄沢祐輔建築設計事務所。

>南後由和(ナンゴ・ヨシカズ)

1979年 -
東京大学大学院情報学環助教/社会学、都市・建築論。東京大学大学院。

>五十嵐太郎(イガラシ・タロウ)

1967年 -
建築史。東北大学大学院工学研究科教授。

>若林幹夫(ワカバヤシ・ミキオ)

1962年 -
社会学。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。

>吉村靖孝(ヨシムラ・ヤスタカ)

1972年 -
建築家。吉村靖孝建築設計事務所主宰。早稲田大学芸術学校非常勤講師、関東学院大学非常勤講師。

>吉村英孝(ヨシムラ ヒデタカ)

1975年 -
東京工業大学大学院博士課程在籍。