1971年生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了、日本学術振興特別研究員(東京芸術大学)、東京工業大学非常勤講師。
(最終更新:2010年8月11日)
[別種の自然 3]
「あなたの本を読んでいたら、『千と千尋の神隠し』を思い起こしましたよ」。 「あなたの本」というのは、私が一昨年末に出版した『森と建築の空間史──南方熊楠と近代日本』(東信堂、二〇〇二)を指しているのだが、こう言われてしまうと、そのあまりに予想通りの結果に、気恥ずかしさを禁じえない。 「あなたの本」の概略はこうである。昔...
『10+1』 No.34 (街路) | pp.33-35
[別種の自然 2]
夢にいたる、狭く暗い回廊には危険が満ちている。言うまでもなく、それは狂気である。古井由吉は「就寝の手続きなるものがあるそうだ」と始めてこう続ける。この手続きが何かのきっかけで少しばかり帳合が狂いはじめると、人はたちまち狂気に掠め取られる、と。 人も物もすべて虚無、というような荒涼感よりは、郵便ポストはなぜ赤い、消防車...
『10+1』 No.33 (建築と情報の新しいかたち コミュニティウェア) | pp.32-33
[別種の自然 1]
熊野について語るとき、いつも困難がつきまとう。語っているその傍らから、アニミズムの甘い誘惑に飲み込まれそうになる。しかし断じて、熊野の自然と信仰はアニミズムでは語れない。それは誤解を恐れずに言うなら、かえって唯物論に近い。 熊野三山と言えば、言うまでもなく熊野本宮大社、新宮速玉大社、熊野那智大社の総称であり、山岳信仰を...
『10+1』 No.32 (80年代建築/可能性としてのポストモダン) | pp.27-28
[別種の自然 4]
私にとって「建築」の原体験は、父の建てた倉庫である。周知のように、倉庫というのは、四角いだけの、モノを納めるためのみの建築である。それ以上でもそれ以下でもない。言いようによっては、「建築」に値しないかもしれない。しかし、「イセ」の簡素さこそが至高の建築だという言い分(ブルーノ・タウト)が成り立つなら、建築が建築であるた...
『10+1』 No.35 (建築の技法──19の建築的冒険) | pp.30-31