生井英考
講談社、2006年、382ページ
ISBN=9784062807197
[境界線上のアメリカ 4]
1 夜闇のノース・アメリカン・ハイウェイを走っていると、光の船に出逢うことがある。クルーズコントロールを時速六〇マイルに設定し、ステアリングの微操作だけでぼんやりと時を過ごしている、そんな夜のことだ。 規則的に過ぎ去ってゆく道路灯とコントロール・パネルに泛んだメーター類の灯りを除けば、眼に入ってくる対抗車線の車の光とて...
『10+1』 No.08 (トラヴェローグ、トライブ、トランスレーション──渚にて ) | pp.232-238
[境界線上のアメリカ 3]
4 「291」以後 よく知られているように、アメリカへ帰国してからのスティーグリッツはニューヨーク・カメラ・クラブの重要な新会員として迎えられ、『アメリカン・アマチュア・フォトグラファー』誌の編集に携わって写真芸術の理論と技術についての批評を次々と発表すると同時に、精力的にニューヨークの街を探索し始めた。この時期、彼が...
『10+1』 No.07 (アーバン・スタディーズ──都市論の臨界点) | pp.176-183
[境界線上のアメリカ 2]
「『いやよ!』私は叫んだ。『アルフレッド・スティーグリッツに会うなんて絶対にいや! そんなことおもったこともないわ! あの人、きっとサディストかスヴェンガリよ。でなきゃ、たぶんイカサマ師だわ。あんたたち、きっと彼の魔法にかけられておかしくなってるのよ。あたし、彼のことをあんたたちみたいに偉大な写真家だなんて、絶対に、ぜ...
『10+1』 No.06 (サイバーアーキテクチャー) | pp.176-183
[境界線上のアメリカ 1]
i 五月のコネティカット・リヴァー渓谷──。 マサチューセッツから北上してきたインターステーツ91号線を途中で降りて、河を渡り、谷に沿った道をさらに北上してゆくと、ゆくては緑したたる栂の林につづいていた。路傍にはとりどりの花をつけた灌木やノブドウの茂みが見え隠れし、頭上の葉枝のあいまからは金色の光が降り注ぐ。行き交う車...
『10+1』 No.05 (住居の現在形) | pp.154-159
[論考]
「……実のところ私は、時間というものを信じていない」──ウラジーミル・ナボコフ『記憶よ語れ』 i サバービアという言葉を耳にするたび、ホセ・アルカディオ・ブエンディーアとマコンドの村をおもいだす。 それはガルシア = マルケスの『百年の孤独』の英雄的な舞台となった村で、かのホセ・アルカディオはもちまえの機略と冒険心...
『10+1』 No.01 (ノン・カテゴリーシティ──都市的なるもの、あるいはペリフェリーの変容) | pp.137-147