現代の日本と都市には、近代において懸命に構築がすすめられてきた社会インフラとしての「ネットワーク」が幾重にも重なりあっている。鉄道網、道路網、上下水道網、エネルギー供給網、放送網、有線電話網、無線電話網、光ファイバー網……今やインフラ・ネットワークの整備は、ある程度の達成をみたといえる段階にあるのかもしれない。しかし、これらの諸ネットワークが十分な相互作用を持ちながら機能しているのかと言えば、それは疑問だ。それぞれのネットワークが勝手なプロトコルをつかって孤立していて、ネットワーク相互の連絡・調整の管理が十分に行なわれていないために、諸資源の無用な輻輳と非効率な分布状況を生んでしまっている。
そのような都市において、「建築」を関心の中心とするわれわれのミッションは、これらのネットワークを束ね、それらを利用する人々との間にあるインターフェイスとして《建築》を再定義し、諸ネットワークを有機的に連動させ、それらの潜在力を最大に発揮させることであるだろう。ここでは、さまざまなネットワークが複雑に重層する都市の様相を横断的にとらえ理解していく試みのいくつかを、トランスネットワークシティプロジェクトとして紹介したい。
時空間ポエマー
「時空間ポエマー」の展示会場では、頭上のプロジェクタから床面に大きく地図が投影されている。地図は直交格子状のセルに分割されており、それぞれのセルの中には、地図上のその領域で撮影された写真が順に表示されている。観客は床に投影された地図の上を歩き回りながら、誰かが、ある時、その場所で撮影した写真を見ることになる。
表示されている写真はGPSとカメラのついた携帯電話によって撮影されたものである。写真にはGPSによって測位された撮影地点の正確な位置情報が記録されている。
撮影された位置情報付きの写真は、携帯電話のメールに添付され、「時空間ポエマー」のメールサーバへ送付される。サーバは受信したメールから写真を抽出し、その位置情報に基づいて地図上の区画に写真を配置する。この地図は、携帯電話から位置情報付きの写真が届くたびに、リアルタイムで描き変えられていく。そのダイナミックに更新され続ける地図が、頭上のプロジェクタから床面に投影されているというわけだ。
「時空間ポエマー」は、多機能化する「ケータイ」の持つ環境情報の取得・編集・共有装置としての可能性を拡張し、位置情報付きの写真を電子的に共有するデータベースを構築し、そのコンテンツを空間的にディスプレイすることを通じて、人々が時間と空間に潜む価値を発見、表現し、共有しようとする行為を支援するシステムだと言える。
中西泰人+松川昌平+本江正茂
東京・仙台
2003
http://www.myu.ac.jp/%7Emotoe/text/zone_poemmer.html
1──時空間ポエマー@仙台 一番町商店街にて路上展示
2──時空間ポエマー@六本木 THINK ZONEにて展示
Urban Landscape Search Engine
都市の認識(=ランドスケープ)を形成するツールとしての検索エンジンをデザインする試み。
ランドスケープデザインとは何か?という問いに対する回答のひとつとして、ランドスケープとは都市の見え方をデザインする手段であるということが言えるのではないだろうか。ランドスケープデザインのキーワードのひとつである「風景」とは、人間が物理的な空間をどう認識するかということであり、ランドスケープデザイナーは、その認識の発端となる物理的な空間をどのようにコントロールするかに活動の力点を置いてきた。
しかし、都市の認識は物理的な空間の存在だけでは成立しない。空間とそれを認識する人間の視点がセットになってはじめて成立するのである。
本グループはランドスケープデザインの可能性のひとつとしてこの「認識」に着目し、物理的な空間をそのままに認識だけをデザインするツールとして、都市の検索エンジンを提案する。
この検索エンジンは、都市生活者からのアクティヴィティ情報をデータベースに蓄積したものをユーザーが検索することで、都市の認識が形成されるシステムである。
本システムでは、GPS機能を持つカメラ付き携帯電話を持つユーザーが、都市生活者として都市を回遊するなかで撮影した位置情報付きの画像とそれに対するコメントが、アクティヴィティの記録としてデータベースに蓄積される。蓄積されたデータはキーワードや時間等で検索することができ、検索結果に応じた地図のアウトプットが逐次描画される。
本システムによって、アクティヴィティの記録とそれらをフィルタリングする検索という行為が交差するところに新しい都市の認識が形成されていくだろう。
岩嵜博論+浜崎一伸+元永二朗+山根高志+吉澤眞太郎
2003
http://ld.minken.net/
※このプロジェクトはLandscape design workshop 2003(http://www011.upp.so-net.ne.jp/workshop03/index.html参照)の一環として企画された。
1──カメラ付き携帯電話で写真をとる
2──GPS情報取得
3──post@ld.minken.net宛てにメール送信
GPS携帯電話を利用した市街地回遊状況の調査と可視化
新しい市街地指標を求めて
市街地の活性化などの都市政策を立案し実施しても、その効果を測定できる方法や指標がなければ、その都市政策の有効性は証明することが困難である。PDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクルでいう「測定なきところに改善はない」は都市施策にも当てはまる。
地方都市の活性化施策を検討するにしても、市街地内の人の回遊行動に関してのデータはないに等しく、あっても個別施策のフィードバックをかけられるようなデータはないのが現状である。
できるだけ安価かつタイムリーに市街地回遊行動データを測定し、ヴィジュアルな分析も可能となる手法や指標を研究することの意義は大きいと言える。
携帯電話のGPS機能を利用するメリットがそこにある。理想的にはGPS付き携帯電話を持っている参加者を募り、その参加者に測定用のアプリケーションをダウンロードしてもらうだけで、地域の広がりや交通手段を問わずに安価でリアルタイムに回遊データを収集できるはずである。
一方、市街地指標としての回遊行動データの形式は、時間や空間を超えた普遍的な比較可能性を持たせることで、より強力な測定指標となる。今回作成した可視化ツールにおいては、現状のGPS機能付き携帯電話の測定データの形式に捕らわれないようにすることで、あらたな位置データの収集手段の登場にも対応できるようにした。
小田原市来訪者を対象にし、二〇〇二年五月に予備調査を、一〇─一一月に本調査を実施した。小田原駅東口にて主に観光客に対してGPS付き携帯電話を配布し、一六三サンプル(予備調査二九、本調査一三四)のデータを得ることができた。 またアンケート結果と組み合わせて、属性別に絞り込んで可視化(折れ線、アニメーションなど)できる可視化ツールも開発した。
「都市情報化と公共空間に関する研究プロジェクト」
慶応義塾大学大学院政策メディア研究科(三宅理一、山田雅夫、藤田朗) +芝浦工業大学工学部建築工学科(大内浩) +凸版印刷株式会社公共情報化推進部(代友昭) +株式会社構造計画研究所事業開発部(半明照三)
2003
http://www.kke.co.jp/corporate/research/case/index.html
※画像には、インクリメントP社提供の地図を使用。
© 1997-2001 INCREMENT P CORP.
1──来訪目的別中心市街地内回遊状況(緑:観光、赤:買い物、黄:その他)
2──小田原城付近の回遊状況拡大図(建物内では測定誤差が大きくなる)
3──世代別市域内回遊状況(高齢者ほど回遊範囲は広く長時間)
TOKYO CODe
われわれは都市のコードハッカーである。われわれは東京の複雑なコードを解読し、世界中の建築関係者にヴィジュアルに紹介することを目的とする。
東京は三二〇〇万人を超える巨大都市であり、その構造は常に変化し続け、非常に複雑である。東京を一言で言い表わすことは不可能に近い。
外国人にとって東京の正確な知識を得ることはさらに難しい。その理由はまず言語の障害があるため、次に東京におけるリサーチのほとんどが定量的であり、データの海に知識が埋もれているためである。また、海外のメディアによるステレオタイプな視点によって東京の本質は隠されている。
東京を理解し海外の人に紹介しようとする時、これらの障害をうち破り、新たな解釈を提示することが必要である。TOKYO CODeの目標は東京のありふれたイメージを取り払い、その真の姿を世界中に紹介することである。
このプロジェクトではまず東京をかたちづくる一連のcodeを解読する。ここでのcodeとはシステム、ルール、パターン、言語、数式、アルゴリズムなどさまざまであり、これらを全てひっくるめてTOKYO CODeと呼ぶことにする。次に選択したcodeをdiagraphic(Dialog+Graphic)に変換し、東京の姿を提示する。diagraphicとはdia-gramの論理性とgraphicの美しさを兼ね備えたものであり、言語にとらわれずに東京内外の人がアクセスできるようなヴィジュアルな表現である。
東京は確かに複雑な巨大都市だが、あるcodeを選びdiagraphicに変換することによりその単純な構造が浮き彫りになる。しかし、もちろん東京は何かひとつのcodeだけで解読できるような単純なものではなく、それら無数の抽象化された東京の重ねあわせとして今われわれが生活する真の東京がある。
最後にこれらの知識をただ単に記述したり、まとめたりするのではなく、多数の人が参加するオンラインゲームでこのプロセスを逆行する。このゲームは、世界中の誰もがアクセス可能なインタラクティヴな知の創造に関するシミュレーションであり、新たな都市を計画するための新しいアーバニズムの模索でもある。
最終成果物として本を出版する。これは東京の解釈や実践を促す知的なコード・バンクとなるだろう。そして、リアルな東京を共有したいと思っている世界中の人々にとって有用なツールとなるはずだ。
Joanne Jakovich + Tomohiko Amemiya 2003
http://www.jakovich.net/code/
by Yuki Haba
by Matsumoto
by Takeshi Fukuda
商店街-SITE
2002/04
ニコニコ通り商店街は、東急目黒線西小山駅から徒歩3分。歴史により築かれた人情味あふれる一体感が魅力である。
しかし、大手量販店の参入などの問題から、次第にかつての活力を失いつつあった。商店街が持つポテンシャルを引き出す起爆剤が必用とされていた。
2002/08
m-SITE-rが建築設計計画開始。現場工事中、養生シートにプロジェクターを投影し、前を通る人に合わせて、土地購入者=われわれがお辞儀をするようなシステムを実現した。
これも含めさまざまなコミュニケーションの取り方を試み、建築物の完成以前から近隣住民との距離感を縮めるよう努めた。
2002/11
事務所兼住居が完成。築45年の元お茶屋さんであった建築物をリノベーション。ごく普通の木造家屋だったが、商店街の一角として建築や景観が馴染んできた記憶を継承しつつ、ここに建築事務所を構える意義を追求した。
2003/05
商店街に対するデザインワークを開始。
フラッグ・ファニチャー・提灯・事務所土間や外構などをデザイン・設置し、商店街組合や地元住民との濃密な連携がはじまる。
2003/07
さまざまな提案が複合的に功を奏し、ニコニコデザインハブとして、さまざまな人の往来が生まれはじめる。通りに活力が戻ってくる。
2003/08
ニコニコトリエンナーレを開催。近隣住民、各大学の美術・建築関係者、通りすがりの人など、さまざまな人々が通りを埋め尽くす。
イヴェントは1週間行なわれ、数千人を動員した。来年も開催決定。
今後のニコニコ通りの変貌ぶりにご期待あれ。
ニコニコトリエンナーレ二〇〇三
二〇〇三年夏、東急目黒線の西小山にあるニコニコ通りで、学生や市民などさまざまな人が集結し、「ニコニコトリエンナーレ」というイヴェントが開催された。今回、監修を行なったわれわれm-SITE-r+hは、前年の一一月にこの場所に自邸兼事務所を構え、通常の建築設計活動の傍ら、地元である商店街を対象としたデザインワークを行なってきた。今回の企画は地元の芸大生から持ち込まれたものだが、アート作品を配置することで若者のポテンシャルを顕在化し、高齢者の多い地元商店街と双方が刺激しあうような相乗効果を狙った。また地元と他所、老若男女さまざまな人間を巻き込むことで、この商店街の潜在能力を多角的に発見できるプログラムとした。一夜に一〇〇〇人強を呼び込む結果となったが、新しい賑わいの出現によって、コミュニティ全体から個性的な魅力が創造されはじめたように思っている。
m-SITE-r+h+m(m=加藤雅明、r=清水玲、h=田中浩也、m=田中元子)
東京
2003
http://www.m-site-r.net/nntriennial.html
ニコニコトリエンナーレ2003
[作品名・参加アーティスト]・野球場〈N-01〜03〉・神原謙悟/ニコニコ常連組合・小屋竜平/ニコニコリンゴ・竹下県/DANBOLU・緒方智規/「花・弾」・今田忠宏/カネコさんと幽霊たち・ghosts(おだにもとあき・管村彩・辻希世・TOME・二宮由香・本多康裕・松田幸子)/にこにこフォーエバー・黒川琢磨/鼓動の吸収・川上史也/ニコニコパーツ・新里碧/芳香花・川路あずさ/ニコニコ神社・SEED(永井啓達・腰越耕太・毛利智教)/かみぬき・前島&田尻/「ショッピングカート」「soundpassage」・m-SITE-r+h/千客万来・BONE(平川紀子・萬野織絵・戸倉百代・安沢千里)
[協賛店舗]ヨコマエ(株)・彩華・魚きよ・カトレア・アリカ・古川クリーニング・吉祥・銀のさら・三好寿司・辛串亭・松井歯科医院・花徳・m-SITE-r・(株)アサヒ電気・原商店・ブルーメン・(株)中野製作所・(株)ダイイチ薬局・(株)セイショウ・三輪学塾・東京シネマ・黄金屋・(有)三金・千曲・カネコ靴店
日常のなかで制作作業が進行
花屋さんの龍の髭×トリエンナーレストーン
作品《ショッピングカート》体験中
カートには時間の形跡を残す仕掛けが
ダンボールで光を幻想化《DANBOLU》
食べられないリンゴ《ニコニコリンゴ》
作品《花・禅》と遊ぶ
都市少年への提案「路地野球」実演
「ニコニコ常連組合」一見さんも常連に
電気屋さんのモニターにアニメーション作品
カネコ靴店は店内まで大胆に変容
日没後も賑わうニコニコ通り
空気を利用した《鼓動の呼吸》
通りの断片をモチーフに
《ニコニコ虫眼鏡》何が見える?
花屋さんは《ニコニコ神社》に……
……変身!
見知らぬカゾク
「見知らぬカゾク」は、見知らぬ人同士でお互いの位置情報を共有し、新しい形のコミュニティをつくりだそうというプロジェクト。
一般的に、同居している家族、普通の意味での「家族」であれば、なんとなくではあれ、お互いに今どこにいるかわかり合っていると思う。今日は部活で早く出かけたとか、バイトで遅いとか、出張で泊まりだとか。そこで何をしているかは具体的にはよく知らないけれども、どこにいるかはだいたい知っている。でも、知っているからといって、何をするでもない。じいちゃん今日も病院だ、と思う。それだけ。娘はまたバイトか、と思う。それだけ。
「同居」しながらも、実際には家でゆっくりとお互いの時間を共有する機会がとても少ない家族が増えている現在、こういった淡くて微妙な位置情報の共有関係にこそ、家族と共に暮らすこと、その絆の核心があるのではないだろうか。
だとすれば逆に、位置情報を共有することによって、まったく見ず知らずの人間をあたかも「家族」のように感じることもできるのではないか、というのが「見知らぬカゾク」のコンセプトである。
「見知らぬカゾク」は不特定のユーザーを公募して行なう。参加者は五─七人程度の「カゾク」グループに分かれ、ハンドルネーム(ペンネーム)でお互いを認識することになる。
サーバが、メンバーの位置情報を取得して、グループごとにまとめ、それぞれのケータイにメールする。
位置情報の取得は朝(八時)、働いてる時間(一四時)、アフター5(二〇時)の一日三回行なわれる。
しばらく続けていると、なんとなく、お互いの行動パターンが見えてくることになる。
全然動かない人、頻繁に移動する人、朝帰りの人、旅行してる人……。
会ったことはないけど、お互いにどこにいたか知っているわけである。だからといって、新しい行動のトリガーにしたり、互いに連絡を取り合うことはできない。ハンドルネームしか知らないから。ただどこにいるかを知っているだけ、という距離感。偶然、ものすごく近くにいたりすると、すごくドキドキする。
「見知らぬカゾク」は、そんなプロジェクトである。
見知らぬカゾクプロジェクト
2000
http://minken.net/kazoku/