RUN BY LIXIL Publishingheader patron logo deviderLIXIL Corporation LOGO

HOME>BACKNUMBER>『10+1』 No.22>ARTICLE

>
08:オーシャン・ノース/アーバン・オフィス:ネットワーク化するイギリス・北欧の建築状況 | 納村信之
OCEAN north & URBAN-OFFICE: Networked Architectural Situation in the UK and Scandinavian Country. | Nomura Nobuyuki
掲載『10+1』 No.22 (建築2001──40のナビゲーション, 2000年12月発行) pp.98-99

OCEAN north:1995年に北欧のさまざまなデザイナーにより設立された非営利のリサーチ・デザイン・チーム。HP=http://www.asplund.arch.
kth.se/workshop/ocegr.html。
URBAN-OFFICE:1999年設立。ロンドンをベースにした都市建築設計事務所。HP=http://www.URBAN-OFFICE.COM/

デザイナーのコラボレーション・ネットワーク

OCEAN northはケルン、ヘルシンキそしてオスロを本拠とする建築家、都市計画家、インテリア・デザイナーそしてインダストリアル・デザイナーなどさまざまなジャンルのデザイナーで構成された若手のデザイナーズグループである。グループの特徴は、非営利べースでリサーチやデザインをフットワーク軽くクロスジャンルでコラボレートすることだ。コアメンバーはケルンベースのマイケル・ヘンゼル、トビ・シュナイダー、オスロベースのキム・バウマン・ラーセンそしてヘルシンキベースのキヴィ・ソタマーの四人で、それぞれ、ヨーロッパ、アメリカの大学で教えながらプロジェクトを精力的にこなしてきている。
彼らの手掛けるフィールドは幅広く、時に応じて構造デザイナーやデジタル・デザイナーともチームを編成するなど、オープンなシステムデザイン展開をしている。
グループにとって、メンバーのマイケル・ヘンゼルがパートナーのジェフリー・ターコと共にAAスクールディプロマコースでベン・ファン・ベルケルのユニットURBAN STUDIOを引き継ぎ、アーバンスケールのデザインリサーチをテーマに教鞭をとっているのは大きなバックアップとなっている。ジェフリー・ターコはロンドンでダニロ・ダンギュービックとガッドジョン・エリエンズソンの建築家と共同でURBAN-OFFICEという都市建築事務所を設立し、時にはOCEAN northと連携してプロジェクトを進めている。

都市のリサーチをべースとしたデザインストラテジー

OCEAN north & URBAN-OFFICEの活動分野は都市計画、建築デザイン、家具デザインそしてインスタレーション、グラフィック・デザイン、マルチメディア・デザインと多岐に渡る。さらに、都市のリサーチを通じて発見されたアイディアをさまざまなプロジェクトに展開・応用している。特に時間を内包した都市状況をつぶさに観察して、都市をさまざまな要素からなるランドスケープとして捉え、トポロジー、密度、時間、アクティヴィティといったソフトな部分を含め、分析、マッピング、ダイアグラム化し都市の不可視な領域を可視化させているのは興味深い[図1]。
この、都市をさまざまな要素からなるランドスケープと見立てる「シンセティック・ランドスケープ・リサーチプロジェクト」は、URBAN-OFFICEによって、一九九五年から九九年までオスロ市中心部で展開された。そのリサーチは都市の成長といった政治的経済的な国家レヴェルまでも包含している。
彼らの数あるリサーチプロジェクトのひとつである「INFRAcity」は、北部オランダの主要な四つの都市を繋げる構想である。四つの都市の間にある閑村も含めて、その活性化に、バス、自動車そして列車等の交通手段を整理し、それらが交差する場所にアクティヴィティを重層化させる装置──「lnfraGallery」──をリニアに点在させようというものだ。[図2─4]。
OCEAN northとURBAN-OFFICEとが共同で行なったコンペ「Urban Ring Bridge」プロジェクトでは、橋を市街電車の駅や人の滞在するホテル、ギャラリーそしてインターネットカフェといったさまざまな文化的アクティヴィティの起こる動的な結節点ノードとして提案している。彼らはこの橋を、都市スケール、サイト周辺も包含したミドルスケール、そして歩行者のスケールといった三つのスケールに分けて、リング状のインフラストラクチャーの結節点ノードとして位置づけ、通過点としての橋をさまざまな都市機能の重層する活動の拠点として提案したわけである。
このプロジェクトには、ストラクチャーエンジニアとしてオブ・アラップ・ロンドンのミシェル・ジャナーもメンバーに加わり構造的に重層するV型アーチ構造を展開してノードのアイディアを見事に可視化させている[図5]。

1──さまざまな都市の要素の関係を表現した3次元ダイアグラム 「Bjo/ rvika project」Oslo、URBAN-OFFICE

1──さまざまな都市の要素の関係を表現した3次元ダイアグラム
「Bjo/ rvika project」Oslo、URBAN-OFFICE

2──北部オランダの4つの都市の円環状の連携URBAN-OFFICE

2──北部オランダの4つの都市の円環状の連携URBAN-OFFICE

3──URBAN-OFFICE「INFRAcity」のリニアなインフラストラクチャーの連結関係

3──URBAN-OFFICE「INFRAcity」のリニアなインフラストラクチャーの連結関係

4──InfraGallery内の連続した空間構成と機能分類URBAN-OFFICE

4──InfraGallery内の連続した空間構成と機能分類URBAN-OFFICE

5──外観CGパース「Urban Ring Bridge」Ocean north & URBAN-OFFICE

5──外観CGパース「Urban Ring Bridge」Ocean north & URBAN-OFFICE

家具デザイン──フィジカルな身体のレヴェルでのデザインスタディ

「Extraterrain」では、振る舞いを限定しないいろいろな行為を誘発させる家具をデザインしているが、これは都市のデザインリサーチで解析されたアーバンランドスケープの図像を、身体的なレヴェルでの家具デザインに応用した例である。この家具は使用者に視覚的には何の適当な使い方のヒントも与えない。使用者は、身体と家具表面との対話の中から自分にあったポジションを発見していくのである[図6]。

6──家具デザイン「Extraterrain 」OCEAN north Helsinki,1996

6──家具デザイン「Extraterrain 」OCEAN north Helsinki,1996

インスタレーション──都市の公共空間へのダイレクトな介入

彼らはまた、デジタルな表現を駆使した抽象的アプローチにとどまらず、都市の公共空間におけるインスタレーションを通じて、具体的なアクションも起こしている。今年(二〇〇〇年)ヘルシンキで行なわれた「lntenCities」プロジェクトは、アーティスト、建築家、ダンサー、音楽家、ジャーナリスト(エディター)、グラフィック・デザイナーがコラボレートした公共インスタレーションである。OCEAN northは全体のコーディネートを担当すると同時に、敷地のヘルシンキ会場と倉庫、そしてその間を貫通するマナーハイム通りに、それらを横断する、敷地のトポロジカルなフローから引き出されたうねるスティールのフレーム構造をデザインした。ダンサーは聴衆の動きと周辺で起こる出来事といった都市のフローに反応してこのフレームの内外を動き回る。さらに動き、光、音といった周辺環境のフローによってつくりだされたデジタルイメージがフレーム内の所々に張られた幕にプロジェクションされることによってリアルとヴァーチュアルの融合する状況を創造した[図7]。

7──IntenCities@ArtGenda 2000パーフォーマンス風景 OCEAN northがコーディネートしたMedia-specific teams, 2000, Helsinki

7──IntenCities@ArtGenda 2000パーフォーマンス風景
OCEAN northがコーディネートしたMedia-specific teams, 2000, Helsinki

流動的に動き回る大海原の潮の流れのようにOCEAN northそしてプロジェクトベースでコラボレートするURBAN-OFFICEは、今日のボーダレスにネットワーク化する社会を象徴しているだろう。マイケル・ヘンゼルは、今後ネットワークを広げて日本も含めアジアのグループと連携しながらやっていきたいと言っている。さまざまな人を巻き込みながらフィールドを越えてデザイン展開していく彼らの今後の動きに注目したい。

>納村信之(ノムラ・ノブユキ)

1965年生
tele-design共同主宰。建築家/名古屋商科大学准教授/博士(工学)。

>『10+1』 No.22

特集=建築2001──40のナビゲーション