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都市連鎖研究体プロジェクト3:建築の浸透圧──天王寺廃線跡リサイクルセット | 都市連鎖研究体
Catenated Design project 3: Architectural Osmosis: Recycle-set at Tennoji Abandoned Tracks | Laboratory for Catenated Cities
掲載『10+1』 No.37 (先行デザイン宣言──都市のかたち/生成の手法, 2004年12月発行) pp.118-123

課題:線状形態の都市への帰還

条件:都市の巨大遺物を利用せよ


ひたすら延びる長大な空き地。廃線跡がほぼそのままの形で残っているのだ。
当初の機能を失ったその廃線跡は、いまや長い範囲に渡って人間の土地を分断するただの境界線でしかない。ヒューマンスケールを超えた遺物は、その変更困難な大きさゆえ、かえって人々の心の中で抑圧され、忘却され、周囲の土地から取り残されてしまうのである。われわれはなんとかして、この巨大遺物を都市に帰還させなくてはならない。
本計画「Architectural Osmosis」では、長大な廃線跡にリサイクル総合施設を計画することで、この長大な遺物を都市に帰還させようというものである。このリサイクル施設には、これまでの同種の建物がもつことのなかったまったく新しいプロセスが構想されている。ここでは、廃棄物を新たな原材料にリサイクルするのみではない。転用の可能性を見出された部材を組み合わせることによって、この世に二つとない新たな商品を作り出すのである。その新しい商品が都市へと還されていくと同時に、廃線という都市の遺物が都市へと還されていくのである。

敷地分析

対象敷地は、大阪市天王寺区南西部に位置する廃線跡である。北端は天王寺、南端は天下茶屋という二つの大きな繁華街を結ぶ線路であり、明治三六年の第五回内国勧業博覧会開催に伴い明治三三年に開通した。その後、周辺敷地は発展するが、平成五年に廃線となる。この敷地は現在、次のような問題を抱えている。

1. グリッド地区と廃線
廃線はグリッド状に形成された周辺地区を斜めに貫いている。そのため、廃線の両側には多くの三角形のヘタ地が発生している。

2. 廃線の形状
全長八〇〇メートル、幅六─一〇メートルの非常に長い敷地形状である。現状としては、両サイドに建物が密集して建ち並んでいる。

3. 周辺敷地の主な構成要素
廃線に対して北西方向には主に中・高層ビルから成るドヤ街、南東方向には老朽化した低層長屋群が広がっている。

方針・先行事例

古代ローマ時代に繁栄した都市のひとつに、オスティアという都市がある。オスティアは古代ローマ帝国によって建設された大規模な道を起点として形成された、典型的な都市モデルである。この都市の形成過程は以下のようなものである。最初は各施設が道に接するよう、連続的に設置されていく。続いて、その道から派生する新たな道が通される。ここでも同じように、道を起点として周辺が発達していく。これを繰り返し、都市は徐々に拡大する。

本設計ではこの先行事例を参考とする。本来の線路という機能を踏襲し、人や物を流すことを基本とする。本敷地の周辺は、すでに建物が密集している。そのため、廃線を面的に拡張することはできない。既存街区を縫うように、廃線を起点に新たな線を延ばし、線的な計画から面的な効果を生み出す。

概念図

1. グリッド状の敷地に斜めの廃線が通る。
2. 廃線から周辺に線を派生させる。
3. 派生した線によって周辺が面的に発展する。

全体計画

敷地条件に最も適した機能を持つものとして、リサイクル総合施設を計画した。この施設では、リサイクル可能なゴミをすべて集め、分別・修理・加工を施し、もう一度商品として販売する。一連の流れを、廃線跡の高低差を利用した緩やかなレールでゴミを流すことにより構成する。敷地の北東端(天王寺側)でゴミを買い取り、上階(二・三層レベル)でリサイクル商品のゴミ分別業務、分解業務を行なう。分解された部材、要修理と見なされた品を、新たに加工し直す製品のための原材料として、各工房が競り落とす。修理・組立工房で製品化された商品を下階(一層レベル)に降ろし、直営のリサイクルショップに搬入し、販売する。

1.買い取り施設/駐車場
生ゴミ以外のゴミをすべて分別して買い取る
2.分類施設
資源ゴミ(瓶・缶・ペットボトル)を分類する
3.修理点検施設
修理のみによって製品化可能かどうかを点検・判別する
4.分解施設
分解しなければリサイクルできないと判定されたゴミを分解し、材料とする
5.業者引き取り所
資源ゴミは業者に売り、特殊廃材は大阪市の特殊処理業者に引き取ってもらう
6.材料倉庫
分解された部品などを保管・管理する
7.競り場
材料を各工房が競り卸す
8.修理工房・組立工房
修理が必要と判定された商品を修理し、また、分解された材料を組み立て、新たな加工製品を生産する

平面計画

二階平面計画
廃線周辺の空地を利用し、リサイクル施設の各機能に適した配置計画を行なった。したがって、各施設の形態は全て周辺の敷地条件から抽出した要素によるものとなる。

一階平面計画
斜めに通る廃線から周辺のグリッド状の敷地に沿うように、商店街アーケードを張り出していく。既存敷地の裏表を考慮し、搬入経路と店先を同時に延ばし、町に浸透させていく。

このリサイクル施設の収集物はリサイクル用の廃棄物になるのみではない。その寸前で、転用可能性を吟味され、競りにかけられ、ドヤ街の職人たちによってこれまでに存在しなかった商品へとブリコラージュされるのだ。そのために巨大な競り施設と工房を有しているのだ。そして新しく生まれた商品は都市へと還されていく。また同時に廃線という遺物も都市へと還されていくのである。

9.商品倉庫
リサイクル済みの全商品を保管・管理する
10.梱包施設
リサイクル商品の販売、修理などを行なう
11.リサイクルショップ
リサイクル商品の販売、修理などを行なう

生産された新商品の一例

・身長体重比測定器──体重と身長のバランスが一目でわかる計具
[使用材料]本体:桐タンス、空気圧調整チューブ兼目盛り:ゴムホース、空気圧栓:水道蛇口、接合部品:自動車のバンパー、チューブ固定棒:高枝切りばさみ
[使用方法]体重別に分けられたタンスの引き出しの上に乗る。すると引き出しの下の空気圧調節装置に接続されたチューブの中の水が押し上げられる。チューブの目盛の高さが自分の目線の高さと同じ時、最も良い身長体重比となる。目盛のほうが高いと太り気味で、低いと痩せ気味と判定される。

・読書を促進する椅子──一度に複数の本を見開き状態で閲覧できる家具
[使用材料]本体:自動車のシート、本立て掛け用回転台:自転車の車輪・組み立て式アルミ本棚の部品
[使用方法]本を読む姿勢に応じて座席のリクライニングと回転棚の位置を調整する。本立て掛け用回転台に、それぞれの本の見たいページを開いて立てかけ、固定する。座席右側に取り付けられたハンドルを回し、読みたい本を手前に持ってきて読む。
(担当:山田道子+舩橋耕太郎)

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特集=先行デザイン宣言──都市のかたち/生成の手法