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天気模様─Creative Boxと地球のアーカイヴ | 須之内元洋+assistant
Weather Pattern: Creative Box and Earth Archive | Sunouchi Motohiro, Assistant Co., Ltd.
掲載『10+1』 No.42 (グラウンディング──地図を描く身体, 2006年03月発行) pp.118-119

「Creative Box」は「狩り」のための装置です。携帯電話やデジカメで撮影したデジタル画像を、端末のGPS機能で取得した位置情報とともに自身のデータベースに投げ込んでやると、サーバ側の装置が瞬時に位置情報、撮影時刻、テキストを読みとって、地図とタイムライン上に自動的に並べてくれます。データベースはネットワーク上にあるので、端末さえあればどこからでもアクセスでき、時間軸と地図上の位置を連想的にたどりながら、タグ付け、カテゴライズがスムーズにできるGUIを備えています。街や野山での収穫物を放り込んでおけば、きちんと自動で下ごしらえをしてくれて、いつでもすぐにとり出して料理ができるよう、安全な場所に保存しておいてくれるわけです。
ところで、これまでのデジタルアーカイヴの発展というと、「装置の発達→より高密度な記録」というサイクルの繰り返しではなかったでしょうか?  よりオリジナルに忠実に、より高密度に対象を記録する技術によって、高クオリティで信頼性のあるデータベースの作成を可能としたり、限られた制約の中で大容量のデータ記録を可能とする圧縮技術により、人間の知覚には殆ど影響のないままにデータボリュームを大幅に小さくするなど。こうした技術進歩の成果は、デジタルアーカイヴの分野のみならず、エンターテインメントをはじめとしたさまざまな分野で活用されています。
しかし、これらの技術も結局は、どのように対象を記録して、どのように見せ、配るのかというところが主な問題意識であって、「装置の発達→より高密度な記録」のサイクルを助長してきたにすぎません。そろそろ、記録のための記録をさせてしまいがちなオブセッショナルなシステムではなく、コンテントとコンテントの繋がりを促し、その繋がりによってコンテクストが増幅的に生み出され、アーカイヴが持続的に成長するような構造を前提とした装置はいかがでしょうか?
「Creative Box」では、ユーザーはまず、自分のデータベースを育てることに注力します。箱庭を造りこむような感覚に近いかもしれません。そのようにして各ユーザーの編集が加わったコンテントを、位置情報やタグをキーに、ユーザー間で共有するのですが、そこで、ユーザーの実世界での体験と、共有コンテントの新しい発見が、装置の中で繋がることを期待しているのです。直接的には自分のために自分のコンテントを編集するということ、自分のコンテントは自分のデータベースに置くということが、いわゆるCGM(Consumer generated media)の信頼性や発展性にとって、案外有効なのではと考えています。
旅や写真行為がそうであるように、狩りをする者は五感をフルに張りつめて、痕跡、匂い、温度、触感を確かめながら狩りをします。「Creative Box」が真価を発揮するのは、インスピレーションを頼りに街や野山に出かけてゆく狩人の身体を拡張する装置として、それが機能するときに他なりません。「Creative Box」を片手に現代の狩人たちが集めたモノは、重なり合いながら次の狩りへのヒントを与えてくれます。それはまさに天気図のように、自分が置かれた環境を把握する手助けとなるのです。天気をうかがって漁師は海へ漁に出かけ、農家は天気の隙に収穫を行ない、サーファーは一期一会の波を求めて海へ繰り出すのと同じように、「Creative Box」のユーザーは未だ見知らぬ体験を獲りに、「Creative Box」で天気を調べて出かけて行くのです。

参考URL
http://www.creative-box.org/
http://www.withassistant.net/

>須之内元洋(スノウチ・モトヒロ)

1977年生
札幌市立大学デザイン学部講師、international & interdisciplinary design practice - assistant Co.,Ltd.。メディア・アーツ、メディア環境学、デジタルアーカイブ情報学、メディアデザイン。

>assistant(アシスタント・カンパニー・リミテッド)

international & interdisciplinary design practice。

>『10+1』 No.42

特集=グラウンディング──地図を描く身体