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第一回:ユニバーサリズムのオブセッション | ヨコミゾマコト+山中新太郎+太田浩史+大村洋平+落合正行+金龍大+権藤智之+夏目将平+見立竜之輔
Obsession with Universalism | Yokomizo Makoto, Yamanaka Shintaro, Ota Hiroshi, Ohmura Yohei, Ochiai Masayuki, Kim Yong-Dae, Gondo Tomoyuki, Shohei Natsume, Mitate Ryunosuk
掲載『10+1』 No.45 (都市の危機/都市の再生──アーバニズムは可能か?, 2006年12月発行) pp.31-36

はじめに

ちょうど一年ほど前、ある展示会場で踊る便器を見た。ワルツに合わせて蓋と便座が開いたり閉じたり、シャワーノズルが伸びたり縮んだり、噴水のように水を噴き出したり……、もちろん展示向けの演出なのだが。そのとき、これはもはや便器ではないと感じた。ものは、本来、倫理性にもとづいた必然から生まれるものと思っていた。しかし、蓋と便座のパ・ド・ドゥーを目の当たりにして、その便器は全く別次元からやってきたものに思えたのである。そして、ものが暴走していると感じたのである。
あらためて身の回りを注意深く見てみると、「ここまできてしまったか……」と感じるものがいくつも見受けられる。便器はそのうちのひとつに過ぎない。ユーザーとしてという前に、建築家として、いかにそれらと向かい合い、付き合っていったらよいのか? 素朴な、しかしなにか刃物を突きつけられているような思いを感じざるをえなかった。そのような思いを媒介にして、われわれは研究グループとして集まった。テクノロジーの進行を止めることはできない。止めようとも思わない。むしろそれを享受したいと思う。そのために、勝手な方向に暴走しているものたちのたづなを束ねようと試みることも今、必要なのではないか。それがわれわれ研究グループの共通認識である。
住宅内に目を移そう。便器だけではない。キッチンや給湯器、空調機など多くの住宅設備(以下住設)は、個々のヴェクトルを持ち、各方向に向かって進化し続けている。過剰と思えるほどのテクノロジーの進行が、個人の物欲や趣向性を超え、家族のコミュニケーションのあり方にまで影響を及ぼしている。われわれは二つの局面を目の当たりにするだろう。ひとつは、電子機器類と同様に高効率化、高性能化、多機能化していく住設の姿。もうひとつは、すでに現実と乖離してしまったかつての「家」、あるいは理想的「家族」の幻影を繋ぎ留めようとする住設の姿である。われわれはその姿から目をそらすべきではない。しかし建築設計者は、分厚いカタログから無難なものを選び、アッセンブルすることに職域を留めている。住設置場と化していく住空間を前にして、自らの空間に対する創造性と、住設のあり方とのあいだにもどかしい断絶を感じながらも何ら抗する手だてを持ちえずにいるのである。
この連載では、住設は住宅の環境を制御するものであり、かつ現代都市インフラの端末であると定義し、人と住設との関係に焦点を絞り、その未来を思い描きたい。ものが先行し、状況に言葉が追いついていない。そのために、われわれはいくつものキーワードを示す必要があると考えている。そのキーワードは多くのプロダクトに共通する横断的なものでありたい。たとえば「パーソナル化」「ネットワーク化」「ステルス化」「ブラックボックス化」「象徴化」「生体模倣化」「抽象化」「幼児化」「ポータブル化」など。毎回数点のものを取り上げ、その一つひとつにキーワードを与えるとともに、技術論・社会論・空間論の広がりのなかでそのキーワードを解説したいと考えている。また各プロダクトはそれらに通底するひとつの物語エピソードのもとでテーマを与えられる。初回はユニバーサルデザインという錦の御旗のもとで起きていることや生み落されたものを「ユニバーサリズムのオブセッション」と題し、取り上げたいと思う。
テクノロジー進化の社会学的批判は容易い。しかしわれわれはそれを行なうつもりはない。なぜならわれわれはテクノロジーが大好きなのである。その進化の彼岸にあってもロマン、つまりまだ見ぬものへの夢やあこがれは持ち続けたいと願っている。その想いがこの連載のタイトルを「テクノロジーロマン」とさせたのである。 [MY]

第一回:ユニバーサリズムのオブセッション


個体差を超克するデザイン

ユニバーサルデザインはノースカロライナ州立大学のロナルド・メイスによって一九八〇年代に提唱された概念である。従来から用いられていたバリアフリーという言葉が、障害の部位や程度によってもたらされるバリア(障壁)に対処する発想であるのに対して、ユニバーサルデザインは、障害の有無、年齢、性別、国籍、人種等に関わらず快適に生活できる環境をあらかじめ計画しておくという発想に特徴がある。これは住設のテクノロジーにも大きな影響を与えている。
また、別の角度から見ればユニバーサル(普遍的、一般的)という言葉が示す通り、このデザイン思想はユーザー数を最大化する思想であるということができる。さらに、この思想にはハンディキャップを持つ者も持たない者も遍く救済するという普遍救済説的な「正しさ」がある。ユニバーサルデザインは市場的にも道徳的にも、有無を言わさぬモチヴェーションを開発者に与えている。

逆説的な排除の構図とオブセッションの影

しかし、こうした普遍性への志向には、プロダクトを平準化させてしまうという側面がある。プロダクトの多様性は需要の多様性があってはじめて成立する。ところが、使いやすさという尺度では測れない需要、例えばデザイン的な嗜好の多様性などに対しては、解答の仕方が極めて限定的になってしまう。ユニバーサリズムには、人々を遍く救済するという大儀のもとに、少数派(マイノリティ)の価値観や嗜好性を排除してしまう危険性を同時に内包してしまうのだ。このことについて私たちはもっと注意を払わなければいけない。ユニバーサルデザインの行き過ぎた普及は、逆説的に健全な個体差や多様性を排除し、使用者の嗜好性をも平準化させてしまうおそれがある。弱者を救済するはずの「正しさ」が、「正しさ」に反するマイノリティを逆に締め出すことになってしまうのだ。
一方で、現在あらゆるプロダクトにユニバーサルという冠が付けられはじめていることに対しても、注意を払う必要がある。身の回りにある住設を見渡してみると、こんなものまでユニバーサル化しなくてもよいのではないかと思うことも少なくない。そこには時流に乗り遅れまいとして無理に普遍性を実現しようとする滑稽さがあったり、商品の正しさを示すために形ばかりのことばを冠する胡散臭さがあったりする。いずれの場合でも住設の開発の現場にユニバーサル化を進めなければならないというある種のオブセッション(強迫観念)があるように映る。「正しさ」は時として圧力を持ってしまう。
こうしたユニバーサリズムの両義性は、単にプロダクトだけの問題でなく、建築を含んだ社会全体の問題であるといえる。ユニバーサルデザインが救済できる多くの問題を評価し、その思想が切り開く未来をしっかりと後押ししつつ、行き過ぎた「正しさ」に対しては健全な意義申し立てをしていかなければならない。建築家やデザイナーに課せられている問題は大きい。
こうした論点を背景に、今回は七つのプロダクトを取り上げて具体的な状況を観察したい。[SY]

構成の説明/読み方

構成は、上二段にプロダクトシート、下段にキーワードの説明およびコラムとなっている。
プロダクトシートには、一般名称と代表的な商品名を併記し、実際に存在するプロダクトの性格を示すイラストと解説、併せて、商品の写真と具体的な説明も加えた。
「関連するキーワード」とは以後に登場する多数の事例を横断的につなげるため、また住設をめぐるテクノロジーはどちらの方向に進んでいるのかを探るための標語である。同時にそれは、歴史的、技術的、社会的背景から生み出される製品開発のモチヴェーションといってもいい。
下段のキーワードの説明では、関連するキーワードのなかから各回のテーマに関わるものや説明が必要と思われるものに関して記している。連載を追うごとに事例同士やキーワード同士が相互リンクするような構成としている。読者各人がそれぞれ、さまざまな住設の関連性を見出すことができるといい。この連載内容を単なる技術集、カタログ集に留まらない、イメージを膨らませるアイディア・ソースとして使用していただければと思う。 [YO]

全自動トイレ

INAXではシャワートイレ、TOTOではウォシュレットと呼んでいるが、もともとは福祉用具であり、ユニバーサルデザインの王道をいく住設である。温水洗浄便座の開発は市場のニーズに追随して商品を次々と開発しているというよりは、新しい発想によって新しい需要を生み出すという商品開発力、すなわちプロダクトアウトの力によるものである。最新の便器にはハイテク機能が内蔵され、まるでおしゃれなスクーターのようである。そこにはもはや排泄物を受け止める器というイメージはない。こうした進化は便器の置き場所を多様化させるとともに、トイレをプライヴェートなリビングスペースに変えつつある。便器の進化が住宅全体の配置を揺るがす可能性を秘めているのである。現在最新の便座では、まず人が来ると便器の蓋が自動的に開き、着座センサーにより人が座ると脱臭機能が働き始める。同時に瞬間的に温水洗浄用のお湯がつくられ、用を足した後には温風乾燥機能が働き、自動的に水が流れる。また野バラ、風鈴、琴、真綿、四季といった名の付いた匂いをほのかに感じさせ、この香りに合わせて歌を奏でるような機能もある。ほかにも室内暖房、リモコン便器洗浄、タイマー節電など多機能化が進む。一方でトイレをクリニックにするという方向もある。体重、血圧、体脂肪、尿糖を測定し、記録を残して健康管理簿を作る。将来的にインフラが整備されれば病院とデータを共有することも可能だという。このように新しい発想で多機能化してきた温水洗浄便座だが、その背景には多くの技術開発があった。節水技術では、水搬送能力を高め一九七〇年以前には二〇リットル必要であった水が現在では六リットルとなっている。また家庭用電源での最大消費電力一二〇〇Wで冬場の水を暖かい快適な温度まで上げるには一分間に流せる水の量が四〇〇ccであるため、間欠的に一秒間に七〇回以上お湯を発射する技術が開発された。その他人間の動きに合わせて働くためのセンシング技術の向上、ナノテクノロジーを応用した便器表面の平滑性の追求、脱臭機能における触媒の開発……と、つねに技術開発による新機能が新しい需要を生み出してきたのである。縁側の向こうのはずれにあって匂いも音も気にならないかわりに途中寒い思いをする。昔の便所はそんな空間であった。それが現在では身近なところにトイレがあっても気にならない状況になってきている。遠くにあった便器が少しずつ歩いてきて、今では空間的には非常に近いところに便器がある。しかし同時に、トイレがテレビや本棚、インターネット等の本来は居間にあったメディア/インフラを連れて、より閉じた個人の最後の砦のような空間になっていく。そこはもうトイレではなくなって、プライヴェートな居間1とか居間2というような空間になっていきそうである。 [RM]

関連するキーワード 多機能化、センサー化、リモコン化、ネットワーク化、家具化、ペット化、全自動化

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多機能化、センサー化、リモコン化、ネットワーク化、家具化、ペット化、全自動化

サティス(INAX) 全自動トイレの全ミッション [STEP 1]便器の前に立つ 自動的に便フタOPEN/リラックスミュージックSTART/ほのかライトON/除菌イオン機能ON/Wパワー脱臭GO/部屋暖房ON [STEP 2]着座する 暖房便座いつもON/シャワー洗浄GO [STEP 3]立ち上がる 自動便器洗浄GO/ターボ脱臭GO [STEP 4]立ち去る 自動的に便フタCLOSE 引用出典=http://www.inax.co.jp/

サティス(INAX)
全自動トイレの全ミッション
[STEP 1]便器の前に立つ
自動的に便フタOPEN/リラックスミュージックSTART/ほのかライトON/除菌イオン機能ON/Wパワー脱臭GO/部屋暖房ON
[STEP 2]着座する
暖房便座いつもON/シャワー洗浄GO
[STEP 3]立ち上がる
自動便器洗浄GO/ターボ脱臭GO
[STEP 4]立ち去る
自動的に便フタCLOSE
引用出典=http://www.inax.co.jp/

column

カラーユニバーサルデザイン──色までもユニバーサル

日本で初めて考えられた技術といわれるカラーユニバーサルデザイン。この考え方が取り入れられた例として、地下鉄路線図「地下鉄マップTOKYO」がある。一四本の路線が描かれる地図では、誰もが認識しやすいように調整された色で表わされているだけでなく、路線の色名を使ってコミュニケーションがとれるようなアイディアまで盛り込まれているという。
「カラーユニバーサルデザイン機構」のHPでは、次のように定義している。

遺伝子のタイプの違いやさまざまな目の疾患によって色の見え方が一般の人と異なる人が、合計すると日本に五〇〇万人以上存在します。こうした多様な色覚を持つさまざまな人に配慮して、なるべく全ての人に情報がきちんと伝わるように利用者側の視点に立ってつくられたデザインを、カラーユニバーサルデザインといいます。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構HPより


カラーユニバーサルデザインの対象者は、ある色の組み合わせについて見え方が異なったり、色を明暗でしか見分けることができなかったりする、いわゆる色弱者である。
色弱者と一言でいっても、色が見える仕組みによってはさまざまである。人間の目の網膜には、暗いときだけに働く杆体と明るいときだけに働く錐体と呼ばれる視細胞がある。錐体には、L(赤)、M(緑)、S(青)の三種類があり、どのような波長の光を主に感じるかが異なっている。これら三種類の錐体が揃っている人が一般型の色覚といわれるが、このなかのひとつでも錐体がなかったり、感度がずれたりすることでさまざまな色覚を生じる。その組み合わせは五種類七タイプあり、それ以外に目の疾患によっても色の見え方は異なってくる。
このように多様な状況に配慮が必要となる一方、私たちが利用する携帯電話やデジカメの表示画面や充電ランプ、電子ジャーや湯沸かしポットなどの動作表示ランプなど色が情報を伝達する重要な手段となりつつある。色までもユニバーサルデザインの範囲とする考え方があったということだけでも驚きだが、今後この考え方が住設に取り入れられていくことでデザインがどう変遷していくのか、空間にどう影響を与えていくのか注目したい。 [MO]
[参考]「カラーユニバーサルデザイン機構」HP(http://www.cudo.jp/)

目の構造 引用出典=「カラーユニバーサルデザイン機構」HP

目の構造
引用出典=「カラーユニバーサルデザイン機構」HP

目の構造 引用出典=「カラーユニバーサルデザイン機構」HP

目の構造
引用出典=「カラーユニバーサルデザイン機構」HP

全自動掃除機能付浴槽

浴槽洗いから湯はりまでを台所のリモコン操作で自動的に行なえる。まず「スタート」スイッチを押すと、自動排水栓が開き、排水を開始する。浴槽底面に付いた「洗浄ノズル&すすぎノズル」が予備洗浄で浴槽全体を濡らした後、霧状の洗剤を噴出、汚れに洗剤がしみこんだ後、すすぎ湯を噴出する。すすぎ終わるとブザーが鳴り、さらに「ふろ自動スイッチ」を押せば、自動排水栓が閉まり、湯はり・保温と進み、あとは入浴するだけである(入浴は浴室まで行かなければならない)。
開発の方向は自浄化だ。風呂もトイレも洗面所も使えば汚れるし、使わずにはいられないが、掃除しなくてすむならしたくない。風呂掃除に対する主婦や高齢者の意見を基にした開発だが、浴槽の形態操作によって掃除が“しやすい”浴槽にするのではなく、風呂が風呂を洗うことを目指している。人間の汚れを落とす風呂が自分の汚れも落としている。「洗っときバス」という名称ともあいまって、なんとも健気なユニットバスである。 [TG]

関連するキーワード 自浄化、リモコン化、全自動化、ラク化

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自浄化、リモコン化、全自動化、ラク化

洗っときバス(ノーリツ) 自動洗浄1回の時間は約10分で(節約モードでは約8分)、費用は30円前後(洗剤代含む)と経済的であるが、初期費用が15万円程度かかる。洗剤はバスマジックリン(花王)で、洗剤投入口から1回に約850ml入れられ、約20日間洗える(洗剤がなくなるとブザーが鳴る)。1週間に1回の手洗いが推奨されている。 引用出典=http://www.noritz.co.jp/kyutoki/kaji/kaji03.html

洗っときバス(ノーリツ)
自動洗浄1回の時間は約10分で(節約モードでは約8分)、費用は30円前後(洗剤代含む)と経済的であるが、初期費用が15万円程度かかる。洗剤はバスマジックリン(花王)で、洗剤投入口から1回に約850ml入れられ、約20日間洗える(洗剤がなくなるとブザーが鳴る)。1週間に1回の手洗いが推奨されている。
引用出典=http://www.noritz.co.jp/kyutoki/kaji/kaji03.html

立座両用キッチン

システムキッチンに椅子が組み込まれた。周りのものを組み込むコンポ化の流れだ。多機能化への開発モチヴェーションが自己完結性へとつながっている。
座っても使いやすいタイプは業界全体の流れだ。椅子を組み込んだタイプは珍しいが、シンク下が空いたシステムキッチンは他社の製品にも見かける。座ると素早い水平移動が難しくなる。座っていても回転移動は容易であるため、車椅子利用者専用に開発されたシステムキッチンでは、シンク両側の台が内側に折れた平面形になっている。
現在市販されている立座両用キッチンは、椅子を持ってきてシンク下を空けただけという印象を受ける。立ち作業型のキッチンはフランクフルトキッチンで一度完成し、それが現在まで続いていると言える。座り作業型にも、戦闘機のコクピットのように座ったままで何でもできる、まだ見ぬ究極のキッチンがあるのではないだろうか。 [TG]

関連するキーワード コンポ化、多機能化、ラク化、汎用化

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コンポ化、多機能化、ラク化、汎用化

システムキッチンフィットアイ (松下電工) 立っても座っても作業がラクで使いやすいキッチン。シンク下のワゴンが椅子になる。作業の合間に休憩したり、座ったままで作業ができる。ワゴンは収納も兼ねており、背面は化粧背板でキッチン全体と調和する。他にも先端開閉式混合水栓、電動昇降水切り、スライド食器洗い乾燥機等を備え、座ったままでも作業しやすく工夫されている。 出典=http://national.jp/sumai/kitchen/fit-i/index.html

システムキッチンフィットアイ
(松下電工)
立っても座っても作業がラクで使いやすいキッチン。シンク下のワゴンが椅子になる。作業の合間に休憩したり、座ったままで作業ができる。ワゴンは収納も兼ねており、背面は化粧背板でキッチン全体と調和する。他にも先端開閉式混合水栓、電動昇降水切り、スライド食器洗い乾燥機等を備え、座ったままでも作業しやすく工夫されている。
出典=http://national.jp/sumai/kitchen/fit-i/index.html

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自浄化

人の手を借りずとも自ら自身の汚れを取り除くことをいう。毎
日使われていれば汚れて当たり前であるが、その汚れた部分を包み隠すかのようにこのセルフクリーニング機能を付加する事例が目立つ。その背景には、汚れていることは罪である、つねにきれいでなければならない、というオブセッションを感じる。汚した部分をきれいにすることを、他人の手、機械の手に委ねることになる。かつて精神世界においてそれは神に委ねられていた。あるいは自然の超越的な力に委ねられていた。その結果、命あるものへのあわれみやいつくしみ、生きることのへ喜びと感謝の念が醸し出されていたのである。身体的障害を補完するために人の手、機械の手を借りることは間違っていない。例えば「洗っときバス」はホテル業界などには歓迎されるだろう。しかし問題は使う側の意識にある。ラクだからという素朴な動機から自浄化された住設を利用し始めたとき、生きるものへのまなざしが希釈され、命あるものに対するリアリティが損なわれていくという副作用をどれだけの人が自覚できるだろうか。[MY]

コンポ化

ある目的のために多機能化と自己完結性を備えようとする傾向を「コンポ化」と呼ぶ。
コンポとはコンポーネントシステムの略。コンポーネントというのは部品のことであり、それらが寄り集まってひとつのシステムが完成している。
例えばCDコンポは、CDプレーヤーのほかに、カセットテープのデッキ、チューナー、アンプ、スピーカーなどから構成されている。CDコンポは「音を出す」という目的のために集められた集合であり、ひとつのシステムとして完結している。
住宅という多様な行為が展開される空間では、新たな目的のためにコンポ化が進む可能性は大いにある。ただ、「コンポ化」は予定調和的な感は否めず、近い属性のものや集合としてまとめやすいものでコンポ化されている事例が多い。いろいろな住設でコンポ化が進むと機能の重複が起こることもあり、住宅二軒分の住設がひとつの住宅の中に存在することも起こりうる。もしも、すべての住設がコンポ化された場合、住宅はいかなる姿に変わっているのだろうか。[YO]

超自然化

自然界に起こる現象を擬似的につくりだす、あるいはそれ以上のものをつくりだそうとする傾向。
住空間と自然とが切り離された現在、その傾向は顕著である。空気清浄機などでマイナスイオンを滝の数十倍放出するといった広告をしているものもある。テクノロジーによる環境の制御や数値化の精度が上がっているということが背景にある。しかしながら、そもそも自然とはいったい何なのかということが問われないまま安易に自然というものを受け入れがちな現状がある。われわれは、踏みとどまって考えなければいけないのではないか。[YO]

多種類安全機能付属ガスコンロ

ピピッとコンロは安全機能が満載だ。左説明にある一一の安全機能がHPで紹介されている。写真の「鍋無し検知機能」によって、鍋を置かないと点火できないが、鍋ふりなどの短い時間で火が消えることはない。焦付消火機能は付いているが、おこげは作れる。
安全機能の数だけセンサーがある。センサーの数だけ使う側は見張られている。グリル内・鍋底の温度、鍋の有無、着火からの時間、さまざまな値が計測されている。そして事故が起きる前に火は消される。「ピピッとコンロ」を使うと、火災保険料が割引になることもある。
誰にでも安全に使える。安全は何より優先されるべきだ。ただ副作用として、なんだか窮屈になっている。そもそも安全に火を使うこと自体に無理があるのかもしれない。火への執着と安全の追求の間を揺れ動きながら、安全機能が増えていく。 [TG]

関連するキーワード 超安全化、使用者監視化、音声ガイド化、センサー化

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超安全化、使用者監視化、音声ガイド化、センサー化

ピピッとコンロ(東京ガス) 安全性や使いやすさを追求した多機能なコンロ。HPには以下の11の安全機能が紹介されている。「天ぷら油加熱防止機能」「立ち消え安全装置」「鍋無し検知機能」「使用中ランプ」「チャイルドロック」「焦付消火機能」「グリル火傷防止扉」「コンロ消し忘れ防止機能」「中火点火」「グリル安全センサー」「グリル消し忘れ防止機能」。 引用出典=http://home.tokyo-gas.co.jp/living/kitchen/conro

ピピッとコンロ(東京ガス)
安全性や使いやすさを追求した多機能なコンロ。HPには以下の11の安全機能が紹介されている。「天ぷら油加熱防止機能」「立ち消え安全装置」「鍋無し検知機能」「使用中ランプ」「チャイルドロック」「焦付消火機能」「グリル火傷防止扉」「コンロ消し忘れ防止機能」「中火点火」「グリル安全センサー」「グリル消し忘れ防止機能」。
引用出典=http://home.tokyo-gas.co.jp/living/kitchen/conro

快眠システム

「ASSA」は光と音で快適な目覚めを提供するシーリングライトである。設定時刻の三〇分前から、朝日のように徐々に明るく照明がつき、約二分前から心地よいサウンドが再生される。松下電工はこれを応用した快眠システム──快眠環境コントローラで照明器具・寝具・空調機器・AV機器などを統合制御──も販売している。ベッドのマット下に敷いて眠りの状態や離床・在床の判定ができる非接触睡眠センサーを組み合わせ、睡眠状態に合わせた補正制御も行なう。すべての機能が快眠という目標に向けて統合されており、閉鎖系のなかで成立している。照明が徐々に明るくなる機能や爽やかな音楽の再生は、自然現象の人工・擬似的な演出である。睡眠という基本行為を空間、時間の制限から開放している点でユニバーサルデザインといえるが、外界と接点を持ちながら空間を設計する建築家の手法とは対照的であるといえる。 [RM]

関連するキーワード 超自然化、センサー化、リモコン化、健康化

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超自然化、センサー化、リモコン化、健康化

ASSA(松下電工) 光とサウンドで、心地よい目覚め。 生体リズムを科学したあかり。 •目覚ましセット時間の30分前から、朝日が昇るようなリズムで徐々に明るく。 •目覚ましセット時間の2分前から、心地よいサウンドでお目覚めをお手伝い。 •便利なスヌーズ機能、おやすみタイマー機能付。 引用出典=http://biz.national.jp/

ASSA(松下電工)
光とサウンドで、心地よい目覚め。
生体リズムを科学したあかり。
•目覚ましセット時間の30分前から、朝日が昇るようなリズムで徐々に明るく。
•目覚ましセット時間の2分前から、心地よいサウンドでお目覚めをお手伝い。
•便利なスヌーズ機能、おやすみタイマー機能付。
引用出典=http://biz.national.jp/

column

湯の町別府ユニバーサルデザイン委員会──究極のユニバーサルデザイン

大分県別府市の別府市旅館ホテル組合連合会では、二〇〇一年に「ユニバーサルデザイン特別委員会」を設立し、多くの旅館・ホテルで高齢者や障害者も楽しめる設備や施設の改善を行なっている。HPでは、「大浴場に階段状の台を使って入浴できる」、「入り口の階段も車椅子昇降機でバッチリ」といったキャッチとともに各旅館・ホテルの設備が写真付きで細かく紹介されており、NPOと連携したバックアップなども見られる。
ここで注目したことは、あらゆる「設備」を有しながらも家族でひとつの大きなお風呂に入ることができる状況をつくっていることだ。「車椅子で洗い場まで行ける家族風呂」とあるように、最終的には家族の手によってすべてが賄われる。「設備」の行き着く先には、超ローテックな「人の手」があった。これこそが究極のユニバーサルデザインである。
[MO]
[参考]「湯の町別府ユニバーサルデザイン委員会」HP(http://www.jp114.com/026/)

高輝度LED付手摺

暗い場所を手探りで歩くとき、急に暗い空間に入ったとき、手すりが光り人を導いてくれる。人が近づくと、それを感知し優しく光り、人が離れると自動的に消灯する。家庭内の転倒事故を防ぐ、特に高齢者向けの安全歩行補助具である。
光林棒の光源はパイプ内部に等間隔に配置された高輝度LEDである。両端には人感センサー、CDSセンサー、バッテリユニットが内蔵されている。人感センサーにより五メートル以内に人が近づくと点灯し、一五秒後に自動的に消灯する。表面には桜の突き板が一体成型されている。
発熱を伴わない発光体であるLEDの発明により手の直接触れる部分を発光させることが可能となった。光林棒もその点で新しい。一方でデザインが手すりで完結しており、空間全体にまで広がっていないともいえる。空間全体の中でLEDを使用した手すりを考えれば、廊下や階段室における新たなデザインの一要素となる可能性を持っている。 [RM]

関連するキーワード ロートレアモン化、ハイテク化、テクスチャー偏愛化、センサー化

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ロートレアモン化、ハイテク化、テクスチャー偏愛化、センサー化

光林棒(テックパイプ) 1. 人感センサーで5m以内に人が近づくと点灯。 2. 15秒後、自動的に消灯。 3. 光源は省エネで明るい高輝度LED。 4.  電源は充電式バッテリーで約1カ月間使用可能。 5. CDSセンサー内臓で明るい日中は点灯しない。 引用出典=  http://www.techpipe.com/

光林棒(テックパイプ)
1. 人感センサーで5m以内に人が近づくと点灯。
2. 15秒後、自動的に消灯。
3. 光源は省エネで明るい高輝度LED。
4.  電源は充電式バッテリーで約1カ月間使用可能。
5. CDSセンサー内臓で明るい日中は点灯しない。
引用出典=
http://www.techpipe.com/

片肘ソファ

一見、何の変哲もないソファのように見える。実際何の変哲もないソファなのである。片側にだけ肘掛けが付いているソファで、左右対称のソファと組み合わせれば二人掛けとなるソファセットの一脚である。
しかし、車椅子を使う人や半身麻痺の人などには重宝するソファだという。肘掛けが片方にしかないため、どこからでも座ることができ、特に車椅子からの移動を楽に行なえる。また右肘掛けと左肘掛けとを選択できるため両側の半身麻痺に対応することができ、肘掛けが立ち上がりの際に手すり代わりとなる。IDÉEのサービスではステッキホルダーをオプションで付けることも可能である。
つまり、普通のソファが実はユニバーサルデザインであったという、「発見されたユニバーサルデザイン」の好例である。一般にユニバーサルデザインは要素を付け足していくことが多が、要素を減らすことで別の価値が生まれている。このことは、建築の設計においても示唆に富んでいる。[RM]

関連するキーワード 転用化

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転用化

片肘ソファ •片側の肘掛けがないため、どこからでも座ることができる。 •特に車椅子からの移動が楽。 •右、左肘掛けを選択できるため両側の半身麻痺に対応可能。 •肘掛けが立ち上がりの際に手すり代わりとなる。 普通のソファの片側の肘掛けがないだけで、車椅子を使用する人、半身麻痺の人までが使いやすいソファとなっている。 引用出典=http://web.sfc.keio.ac.jp/~s99433as/ud/f060503 sofastick.html

片肘ソファ
•片側の肘掛けがないため、どこからでも座ることができる。
•特に車椅子からの移動が楽。
•右、左肘掛けを選択できるため両側の半身麻痺に対応可能。
•肘掛けが立ち上がりの際に手すり代わりとなる。
普通のソファの片側の肘掛けがないだけで、車椅子を使用する人、半身麻痺の人までが使いやすいソファとなっている。
引用出典=http://web.sfc.keio.ac.jp/~s99433as/ud/f060503
sofastick.html

keyword

ロートレアモン化

テクノロジーの進化の過程では、本来別々の系列に位置づけられていた技術や素材が慣例的な文脈から引き離されてひとつのプロダクトやテクノロジーのなかに組み合わされることがある。このような進化の系をここでは「ロートレアモン化」と呼ぶ。これはロートレアモンによる「手術台の上のミシンとこうもり傘」というフレーズから想起されるようなシュルレアリスティックな出会いであり、ある種の畸形を生み出す異種配合である。前述した「コンポ化」とは異なり「ロートレアモン化」の妙味は、本来出会うはずのなかった要素が出会うことで、それぞれの要素やプロダクトという全体について、従来の解釈を超えた新しい意味や体系を生み出す可能性を秘めていることである。だからこそ、「ロートレアモン化」は時として開発者の想像を超えた飛躍的な進化をもたらす。しかし、一方で多くの「ロートレアモン化」の成果はキッチュやグロテスクという批判を浴びて短期間で姿を消している。確率は低いが大化けするかもしれない異種配合には、期待と失望が紙一重で交錯するロマンがある。[SY]

次回予告

ユニバーサルデザインの定義をここで繰り返し確認する必要はないだろう。重要なことは、その言葉の裏側にヤバさを感じることである。われわれは、たびたび「正しさ」とはなにか?に突き当たった。それはPC(ポリティカル・コレクトネス)における歪んだニュートラルさがもつヤバさとほぼ同種のものである。さらにそこには、倫理性をはるかにしのぐ市場性も横たわっている。今回の作業によって、建築家やデザイナーはおかしいと思うことをしっかりと言語化し、つねに「正しさ」とはなにかを社会に問い続ける職業ではないかと改めて自覚した。状況に対し無感覚であることがもっとも正しくないことなのである。次回は、「リモコンな快楽」と題し、日常生活の中で不可欠となったリモコン(遠隔操作)をめぐる物語(エピソード)を綴りたいと思う。 [MY]

>ヨコミゾマコト(ヨコミゾマコト)

1962年生
aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所主宰。東京藝術大学建築科准教授。建築家。

>山中新太郎(ヤマナカ・シンタロウ)

1968年生
山中新太郎建築設計事務所主宰、日本大学理工学部助教。建築家。

>太田浩史(オオタ・ヒロシ)

1968年生
東京大学生産技術研究所講師、デザイン・ヌーブ共同主宰。建築家。

>落合正行(オチアイ・マサユキ)

1980年生
PEA...共同主宰。建築家、インスタレーター。

>『10+1』 No.45

特集=都市の危機/都市の再生──アーバニズムは可能か?