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地表の事情 | 石川初
Earth Surface Conditions | Ishikawa Hajime
掲載『10+1』 No.42 (グラウンディング──地図を描く身体, 2006年03月発行) pp.82-83

365dpi


The project is an organized sampling of the world. There is a confluence within 49 miles (79 km) of you if you’re on the surface of Earth. (The Degree Confluence Projectトップページより)


「The Degree Confluence Project」は、参加者が世界中の緯度経度の交会点(度の単位でぴったりの場所)を訪れ、その地点の風景を写真に収めて投稿するというWEBサイトである。大航海時代に発達した「緯度経度」は、地球を機械的なグリッドで覆い、位置を「座標」に置き換えるという、全域的で均一な「近代の視点」である。「交会点」も、恣意的に決まった仮想点に過ぎない。ところが、そのような個々の場所の都合を無視した「位置」からの風景写真が地図上にマッピングされると、衛星写真などではまったく窺えない「地表の表情」が浮かび上がる。「Composit Map」には都市の写真がほとんどない。「The Degree Confluence Project」は、無数の都市に覆われた世界とはまた違った地球の一面、「地表の事情」を見せている。

1──「Composit Map」の東アジア部分

1──「Composit Map」の東アジア部分

6──The Degree Confluence Project「Composit Map」。8,000人以上の参加者によって、171の国にわたる、5000を超える「緯度経度交会点」が記録されている(2006年2月現在)  URL=http://confluence.org/

6──The Degree Confluence Project「Composit
Map」。8,000人以上の参加者によって、171の国にわたる、5000を超える「緯度経度交会点」が記録されている(2006年2月現在) 
URL=http://confluence.org/

2──イギリス国土を1kmメッシュで記録する 「GEOGRAPH」プロジェクト URL=http://www.geograph.org.uk

2──イギリス国土を1kmメッシュで記録する 「GEOGRAPH」プロジェクト URL=http://www.geograph.org.uk

3──シカゴの街路の交差点の風景の集積。個人のプロジェクト URL=http://www.fakeisthenewreal.org/milexmile

3──シカゴの街路の交差点の風景の集積。個人のプロジェクト URL=http://www.fakeisthenewreal.org/milexmile

4、5──mile by mile URL=http://fakeisthenewreal.org

4、5──mile by mile URL=http://fakeisthenewreal.org

軌跡の地面

GPS受信機の「軌跡」は、移動の記録である。道路地図が内蔵されていないモデルの場合、購入したばかりの受信機の画面は「空白」である。立ち止まっていても、たしかに現在位置は測定できるが、表示されるのは単に緯度経度の数字であって、自分が立っている場所とGPS受信機の示す位置とには何の関係も感じられない。ところが、歩き始めると事情が一変する。画面にはよろよろと線が描かれ、軌跡が表示、蓄積され始める。受信機は「位置」に「時刻」をプロットしてゆく。緯度経度の座標も世界時間も、時空に当てはめられた仮想の均質な物差しである。しかし、この二つが身体の移動を通して交差されて「軌跡」に変換された途端、含有する情報がいきなり増大する。私たちは移動することによってしか、空間を「体験」できない。都市を「いっぺんに」見ることはできないし、体験できる空間はきわめて限られている。都市の体験は私の移動の記憶の連鎖である。空間と時間は一体である、という、考えようによってはあたりまえのことを、GPS受信機はあらためて思い起こさせる。

7──GPS軌跡のみで描いた地図。上から、調布付近、東京区部、日本列島 8──2002年から2006年の軌跡の「地層」 9、10──GPS軌跡による調布と、筆者が「見た」調布

7──GPS軌跡のみで描いた地図。上から、調布付近、東京区部、日本列島
8──2002年から2006年の軌跡の「地層」
9、10──GPS軌跡による調布と、筆者が「見た」調布

11──GPS軌跡で描いたアヒル、ゾウ

11──GPS軌跡で描いたアヒル、ゾウ

12──多摩霊園のトレース

12──多摩霊園のトレース

13──目黒区に描いたトカゲ  作成=酒井直子

13──目黒区に描いたトカゲ  作成=酒井直子

14──豊玉に描いたカタツムリ  作成=西川晃司、素子

14──豊玉に描いたカタツムリ  作成=西川晃司、素子

15──筆者の通勤径路の軌跡を1947年の航空写真にマッピングしたもの

15──筆者の通勤径路の軌跡を1947年の航空写真にマッピングしたもの

16──筆者の通勤径路の軌跡を現在の航空写真にマッピングしたもの

16──筆者の通勤径路の軌跡を現在の航空写真にマッピングしたもの

11–16引用図版=軌跡地図は、(株)デジタルアーステクノロジー「スカイビュースケープ」、国土地理院「数値地図25000地図」画像、同「航空写真閲覧システム」を利用

>石川初(イシカワ・ハジメ)

1964年生
株式会社ランドスケープデザイン勤務、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)、関東学院非常勤講師。ランドスケープデザイナー。

>『10+1』 No.42

特集=グラウンディング──地図を描く身体