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新東京タワーに最新テクノロジーは必要か? | 南泰裕
On the Technology of the "New Tokyo Tower" | Minami Yasuhiro
掲載『10+1』 No.49 (現代建築・都市問答集32) pp.108-109

新東京タワー計画の経緯

来る二〇一一年、東京東部の隅田川沿いに、高さ六〇〇メートルを超える超高層タワーが建ちあがる計画が進んでいる。東京の再開発として最も注目を集めているもののひとつである、第二東京タワー計画である。未曾有の高みを望むこの新東京タワーが完成すれば、港区に位置する現存の東京タワーを凌ぎ、日本一の高さを持つタワーとなる。
この新タワーの建設は、一九九七年頃から墨田区や台東区、千代田区、豊島区、埼玉県をはじめとして、首都圏の各地が電波塔の誘致活動を行ない始めていた。が、その当時はこうしたタワーの必然性が明確に示されず、それぞれの誘致案は静観されるに留まっていた。それが、二〇〇三年一二月に、NHKと在京民放五社によって発足した「在京六社新タワー推進プロジェクト」により、地上デジタル放送の機能を積極的に活用する目的で、現在の東京タワーに代わる高さ六〇〇メートル級の新タワー構想を推進していくことが発表されたのである。
ここから、新東京タワーの計画は一気に現実味を帯びていく。そして高層化が進む東京においてより良好な電波環境を確保するため、高さ四五〇メートル以上のタワーが必要との検討から、超高層タワーの建設が具体化され始めた。その前提で、地上波放送がデジタル放送へと完全移行する二〇一一年までにこの新タワーを完成させることが目標に掲げられ、建設工事の事業主体やプロジェクトの内容、立地条件や経営形態が検討されるようになった。その後、建設候補地は「墨田・台東エリア」と「さいたま新都心」の二カ所に絞られ、二〇〇五年三月に「墨田・台東エリア」が第一候補地に選定される。その延長で、二〇〇六年三月に東京都墨田区押上の貨物駅跡地が、新東京タワーの建設地として最終決定され、ついに実現を目指したプロジェクトとして始動し始めたのである。

プログラム、デザイン、テクノロジー

この新東京タワーは、事業費約五〇〇億円をかけて建設される予定で、その主要プログラムは電波塔および観光施設であり、タワー周辺のオフィスや商業施設および周辺地域の交通整備と連動した大規模再開発も計画されている。高さ六一〇メートルからなるこの塔は、三五〇メートル部分に第一展望台を、四五〇メートル部分に第二展望台を、そしてその頂部にデジタル放送用アンテナを配し、地上から第二展望台までを中央部分の展望用エレベーターが貫く構成をとっている。
タワーのデザイン監修は、建築家の安藤忠雄氏と彫刻家の澄川喜一氏が協同で行ない、基本設計を日建設計が担当することになっている。タワー全体は、上部へと向けて微妙な曲線を描きながら形が連続的に変化していく形状を採っている。これは、日本刀や伝統的日本建築などに見られる「そり」や「むくり」をデザイン・モチーフとしたものである。それにより、足元の地上部分においては正三角形の平面形態が、上部へと行くに従って次第に円形へと変化していき、頂上部のアンテナへとつながっていく形を生み出している。
足元の三角形は、隅田川周辺の地形を象徴したものでもある。また、構造的には中央に塔体部があり、その周りをトラス状の鉄骨部材で覆う構成となっている。これは、耐震性や耐風性を考慮して、日本の代表的な木造建築物である五重の塔を参照にしたものである。つまり、中央部分に、心柱にあたるエレベーター・コアを配すことで、各々の要素の相互作用により揺れを軽減する制振システムを、最新のテクノロジーによって再現しようとするものである。
地震大国である日本において、六〇〇メートル級というこれまでにない高さの構築物を建てるうえでは、こうした技術的検討の重要性は言うまでもない。現在進行形のこのプロジェクトに関して、技術的な詳細はまだ明らかにされていないため、これ以上の確定的なことは言えない。が、こうした検討とは別に、このタワー計画は、技術とそれを取り巻く諸問題について、別次元の事柄を示唆しているように思える。それは一言で言えば、テクノロジーの上限と循環をめぐる問題系である。

「テクノロジーの上限」という問題系

新東京タワー計画の概要から受け取る印象を大まかに述べれば、それが、どこかしら既視感をともなうように見えることだろう。日本のナショナル・アイデンティティを隠喩として折り込んだその外観は、一見、山田守の設計による京都タワーを思い起こさせなくもない。が、それよりももっと広義の意味で、そこではさまざまな次元で新しさが強調されているにも関わらず、デザイン的にも、技術的にも、プログラム的にも、すでにどこかに存在し、どこかで見てきたような手応えを受け取ってしまう。タワーとして未踏の高さを目指しているにも関わらず、それが既知の技術の範囲内で計画されているように見えるのである。
とするならば、そこにはすでに建築をめぐるテクノロジーの上限が見えてきている、ということなのだろうか。例えば、類例の超高層タワーを想起してみれば、一九世紀におけるパリのエッフェル塔、二〇世紀における東京タワーがまず挙げられる。この「エッフェル塔」「東京タワー」「新東京タワー」という、それぞれに世紀をまたぐ三つのタワーで使われている素材が、すべてスチールであり、かつトラス状の構造による構築物となっている点を鑑みれば、形式的には同じ素材と技術を反復しつつ、それを洗練してきているように見えるのである。やや強引に言ってしまえば、ここには、テクノロジーをめぐるきわだったブレイクスルーは、見出せないように感じられるのだ。
かつて一九八〇年代以降に、さまざまな建築家やゼネコン等により、高さ数百メートルから一〇〇〇メートル級の超高層建築の計画案がこぞって発表された時期があった。当時これらは、その社会的必然性やコストを度外視すれば、技術的なリアリティは十分持っているように見えていた。そうした計画案の発表から一定期間のタイムラグを経て、二一世紀初頭の現在に、ひたすら高みを希求するイマジネーションが現実化しようとしている。これは言い換えれば、二〇世紀においてすでに確かめられていたテクノロジーの上限に、二一世紀を迎えて、社会的欲望がようやく追い付きはじめた、ということなのかもしれない。だとしたら、この新しいタワーに新しい技術の気配を読み取れないことは、さして不思議なことではない。
奇しくもこうした社会的欲望が無意識に共振するように、ドバイでは八〇〇メートル以上の高さを持つ超高層ビルが、ロシアにも六〇〇メートル級のタワーが、その他のいくつかの国においても同様の規模のタワーが、近い将来の完成を目指して同時多発的に計画されている。新東京タワーが完成する頃には、高さにおいてそれを凌ぐタワーがいくつも建ちあがっており、それは技術的にも、高さにおいても、すでに未見の存在ではなくなっているのである。

新東京タワー 引用出典=http://www.rising-east.jp/top.html

新東京タワー
引用出典=http://www.rising-east.jp/top.html

>南泰裕(ミナミ・ヤスヒロ)

1967年生
アトリエ・アンプレックス主宰、国士舘大学理工学部准教授。建築家。

>『10+1』 No.49

特集=現代建築・都市問答集32

>安藤忠雄(アンドウ・タダオ)

1941年 -
建築家。安藤忠雄建築研究所主宰。