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ヒューストン大学SICSAのデザイン思想 | 関戸洋子
The Sasakawa International Center for Space Architecture Design Concepts | Yoko Sekido
掲載『10+1』 No.46 (特集=宇宙建築、あるいはArchitectural Limits──極地建築を考える, 2007年03月発行) pp.156-157

アメリカ合衆国南部、テキサス州ヒューストンといえば、NASA。そのNASAとも関連深い、笹川国際宇宙建築センター(通称SICSA=Sasakawa International Center for Space Architecture)がヒューストン大学にある。私は、SICSAに二〇〇五年夏までの約一年間、客員研究員として滞在した。そのときの経験をもとに最新情報を交えて、SICSAでの宇宙建築への取り組みについて紹介したい。
SICSAは、一九八七年に日本の笹川船舶からの寄付金三〇〇万ドルにより設立され今日に至っている。SICSAでは、ユニークな研究、デザイン、教育活動により、世界に類をみない宇宙建築プログラム、通称MS-Space Architecture program(Master of Science in Space Architecture program)を行なっている。

SICSAのプロジェクト

図1─8までは、極環境におけるプロジェクトの数例である。地球上のものでは、海中施設、南極施設、グリーンランド施設、災害時シェルター、といった提案がある。このほか宇宙空間では、火星や月への移動空間、月面や火星面上での居住空間、人工的な重力発生を考慮した乗物、など多様な設計活動を行なっている。いくつかのプロジェクトやレクチャーについては、SICSAのウェブサイト(http://sicsa.uh.edu/)から無料でダウンロードできる。

1──災害時シェルター  2005─2006 図版提供=SICSA

1──災害時シェルター  2005─2006
図版提供=SICSA

2──グリーンランドのサミットステーション  2004─2005 図版提供=SICSA

2──グリーンランドのサミットステーション  2004─2005
図版提供=SICSA

3──月と火星における施設の外観  2004─2005 図版提供=SICSA

3──月と火星における施設の外観  2004─2005
図版提供=SICSA

4──同、内観  2004─2005 図版提供=SICSA

4──同、内観  2004─2005
図版提供=SICSA

5──火星における水栽培研究棟の外観  2002─2003 図版提供=SICSA

5──火星における水栽培研究棟の外観  2002─2003
図版提供=SICSA

6──同、内観  2002─2003 図版提供=SICSA

6──同、内観  2002─2003
図版提供=SICSA

7──宇宙産業用研究棟  2000─2001 図版提供=SICSA

7──宇宙産業用研究棟  2000─2001
図版提供=SICSA

8──潜水式研究施設  1997─1999 図版提供=SICSA

8──潜水式研究施設  1997─1999
図版提供=SICSA

SICSAの主要メンバー

宇宙建築を専門とするアメリカ人のラリー・ベル教授(Larry Bell)をトップに、ロシア人のオルガ助教授(Olga Bannova)のほか、三人の米露の講師がSICSAの主要メンバーである。彼らのもとに、学部生や大学院生として、世界中から学生が集まり、国際色豊かな集団である。また、パリの大学(Strate College)やスウェーデンの大学(Lund University)といった他大学とのコラボレーションも進行・拡大中である。

SICSAのデザイン思想

SICSAでは、平和的で有益な宇宙利用と技術の提案を行なっている。宇宙建築のデザインで考慮することとして、建設過程や材料選択にかかわる宇宙環境という独特な環境の影響、孤立やストレスへの生理学的・心理学的・社会学的な影響、無重力や微小重力における人間の適応性やパフォーマンスに結びつくヒューマンファクターの問題、といったことが挙げられる。例えば、月ならば数週間、火星ならば三年もの間、限定された空間を限定された八人程度のメンバーで過ごさなければならない。その空間デザインにおいて当然ながら、まず生理的・物理的に必要な物資、システムの空間量を確保したうえで、乗組員の精神的なストレスに対処するための建設的な仕掛けについても討論を重ねてデザインしていく。「デザインの正解は私にもわからない。みなで一緒に考えていこう」というベル教授の言葉どおり、教授も学生も知恵を集結させて総合的によりよい環境の創出に取り組んでいる。

>関戸洋子(セキドヨウコ)

1973年生
東京大学大学院客員研究員。建築計画学、空間学。

>『10+1』 No.46

特集=特集=宇宙建築、あるいはArchitectural Limits──極地建築を考える